上野千鶴子先生(社会学者・東京大学名誉教授)による講演会

日本の介護事情“おひとり様の最期”というユニークな講演会が桜楓会と企友会共催のもと、10 月 15 日(土)に日系 センターの隣の Alan Emmott Centre で開かれました。前日までの嵐のような悪天候をついて、150 名近い聴衆の皆 さんが集まりました。講師は著名な社会学者である上野千鶴子東京大学名誉教授。話は日本の事情だけにとどまら ず、一般的に「老い」を考える時の示唆に富んだ内容で、“日本の”と銘打ったタイトルにも拘わらず集まった聴衆も 大いに満足した様子でした。先生のお話を以下に簡単に紹介します。
今後一人で最期を迎えるだろう人たちが増えてくることが予想される。だが、「一人」でいるということと、孤独とか寂しさといったこととは決して同義ではない。これまで慣れ親しんできた環境をできるだけ維持しながら、快適に最期を迎えることは可能である。
1976 年の統計では最期を迎える場所として、病院(88%)、在宅(13%)、施設(6%)という数字が挙げられているが、日本政府の医療・福祉制度改革では、たとえ病院や施設にいても、在宅復帰率 75%を目標としている。目指すところは「ほぼ在宅、時々病院」というスタイルである。
従来の「年金」と「医療保険」に加え、2000 年に成立した「介護保険」は快挙であった。この保険制度の整備によって、 “老後は施設へ”という考え方から脱却することができよう。
上野先生の聞き取り調査によれば、介護施設への入居には家族の強い意向が働いている場合が多い。年寄り自身 は家で死にたいと思っているケースが実際には多かった。だが、様々な事情で昔のような家族介護が困難になって きている。そうした家族介護や本人が受けたい形の介護を外のサービスで提供することは可能であり、それを支える のが介護保険である。「在宅ひとり死」を可能ならしめるのは、

1)24 時間巡回介護 

2)24 時間対応の訪問医療

3)24時間対応の訪問看護 の3点セットである。

現状でこれらがよく整備されていると言えるかどうかは疑問だが、日 本の介護事情は最近とみに優れたものになってきている。大いに期待できるところである。 施設ではなく普通の民家を使ったホームホスピスといった事業も見られる。これも介護保険制度の成果である。実は 空き家となっている民家は日本には多い。それの活用を考えれば、従来型の介護施設の増設は必要ない。
団塊の世代の大半が後期高齢者(75 歳)になる 2025 年には、日本では高齢者の 4 人に 1 人が認知症となり、認知 症 70 万人時代を迎えようとしています。そうした中でも、介護施設に頼らず年寄り自身が真に望む形での介護がで きる、と多くのデータと聞き取り調査の結果を示しながら説明される上野先生のお話が新鮮で、とても印象的でした。 ここカナダ・BC 州では先生が日本で見て来られたような法制度や医療環境があるのか否か、それを調べて施設介 護や在宅介護について研究をしてみる必要性を痛感した講演会でした。
(記:会長 久保克己)