夏衣裳当世美人 越後屋仕入のちぢみ向キ

喜多川歌麿の美人画から「夏衣裳当世美人 越後屋仕入のちぢみ向キ」をご紹介いたします。 江戸時代、浮世絵は現在のポスターやチラシのような広告媒体としても刷られていました。この作品が制作されたのは文化元年頃(1804年)。画面右上ののれんの屋号は三井越後屋。 伊勢松坂商人の三井高利が、日本橋に開いた呉服店で今の三越デパートの前身です。
越後屋は店頭での現金販売や反物の切り売り(メーター売り)など、当時としては画期的な商法で、富裕層のものだった呉服を大衆化したことで繁盛し、江戸時代最大の呉服商とまでいわれました。
これはその越後屋の涼し気な小千谷(おじや)ちぢみの着物(正確には反物)の宣伝のための浮世絵。薄く透けて艶っぽい朱色の長襦袢。眉が描かれているのは子供がいない若い女性の証拠、でも口元はお歯黒が塗ってあるので結婚が決まっている。読んでいるのは文(手紙)。それも巻いてあるのをほんの少しだけ開いてこっそり読んでいるところから察すると恋文でしょうか。
女性が腰掛けているのは夏に軒先や庭先で涼むための縁台。横に置かれたうちわは紅塗りの高価なもの、またその上に置かれた小箱はホタルの灯を楽しむための風流な虫籠。 帯や髪型からもこの女性はかなりのお洒落さんなのが分かります。これが現代だと最新ファッションに身を包んだ女性が婚約者からのメッセージをi-phoneで読んでいるといった構図でしょうか? この絵は夏のものなので9月のニュースレターには季節が合わないとも思ったのですが、先日のテレビジャパンで放 送された浮世絵の番組で観て、興味深かったので取り上げてみました。