蛍狩 天明頃婦人

7月といえば七夕や蛍狩りなど日本ではさまざまな行事がありますが、今回はその中から蛍狩りの浮世絵を見つけたのでご紹介いたします。明治時代に活躍した浮世絵師兼日本画家の水野年方(みずのとしかた)(1866 年〜1908 年)の美人画集三十六佳選「蛍狩 天明頃婦人」です。
島田に結った髪型の見目麗しい武家の女性。その右手には豪華な房付きの朝顔の団扇を持ち、左手は捕まえた蛍を握っているような様子。ひざまずいてそれを受け取って虫かごに入れようとしている小姓のような出で立ちの男。籠の中には数匹の蛍が光り、涼を感じさせる一枚です。遠景に影のように描かれた蛍取りの男性たち。蛍を捕まえるのに必死なのか、どこかひょうきんな動きと、手前の美人が対照的で、楽しげな雰囲気が伝わってきます。
作者の水野年方は左官の棟梁の家に生まれ、幼い頃から画才があったため浮世絵師の月岡芳年のもとで学び独立。明治28年頃からは文学小説などにも多くの挿絵を描き、人気挿絵画家としても名を馳せました。この時代は日本の出版業界が勃興した時期で、彼のもとには多くの依頼が来ました。また錦絵(浮世絵)でも「今様美人」シリーズなどを手がけ、穏やかで気品のある作風を打ち出しました。 浮世絵師として、また歴史人物画家としても地位を築き、明治 31 年に日本美術協会の日本画会結成に参加し、第 1 回展に出品した「佐藤忠信参館之図」は宮内省御用品となっています。
明治の浮世絵師のこのような活動は、町絵師から芸術家へと変わりゆく時代であったことを示しています。水野年 方の門下には近代日本の美人画家として有名な鏑木清方もいます。