月に雁

秋にちなんで歌川広重の傑作のひとつ「月に雁」をご紹介いたします。
短冊形の画面に大胆に描かれた満月をバックに、羽を休めるため、空から水面に舞い降りる三羽の雁。澄んだ夜空に響き渡る雁の鳴き声まで聞こえてきそうな構図です。画面下部には藍のぼかしを使って雲の奥行きを描き、優美で物悲しい秋の月夜を抒情豊かに表現しています。
左上には満月の輪郭に沿って「こむな夜か 又も有うか 月に雁」(こんな夜がまたもあろうか、月に雁)という賛美の句が添えられています。
ところで、下方の「広重筆」の部分の落款(印)はよく見ると馬と鹿の図案で“馬鹿”と読めます。これは草書体の「福寿」を遊び心でデザインしたもので、鹿が「福」、馬が「寿」の絵文字です。これを「福寿印」、また「馬鹿印」とも呼ぶそう。広重が天保年間に制作した花鳥画に多く使用した遊印です。
皆さんもご存じのとおり、この作品は昭和24年11月の郵便週間に切手の図案として発行されました。切手コレクターの間では現在も高値で取引されています。
■歌川広重(うたがわひろしげ)寛政9年(1797年)~安政5年(1858年)
本名が安藤重右衛門のため、安藤広重とも呼ばれた時期もある。