伯耆 大野 大山遠望

6月といえば日本では梅雨の時期。そこで今月の浮世絵は歌川広重の「六十余州名所図会(ろくじゅうよしゅうめいしょずえ)」から、雨の中の田植えの風景を描いた「伯耆 大野 大山遠望(ほうき おおの だいせんえんぼう)」をご紹介いたします。
伯耆の国、大野という場所は三朝(みささ)温泉で有名な鳥取県西部鳥取県東伯郡三朝町の辺り。この絵の背景に描かれているのは日本の百名山の一つ、大山です。大山は標高1,729m、別名「伯耆富士」「出雲富士」とも呼ばれ、信仰の対象として古来から崇められてきました。
春の終わりの柔らかい雨の中、家族親戚総出で田植えに勤しむ農家の人々が描かれています。雨よけの蓑を着て笠をかぶり、雨に濡れながらも人々は秋の豊作を願いながら懸命に作業しています。でもよく見るとその顔はどこか和やか。遠くにはまるで彼らの守護神のように大山がそびえ立っています。
この作品の収められているシリーズ「六十余州名所図会」は1853年(嘉永6年)から1856年(安政3年)にかけて制作された広重晩年のものです。五畿七道(古代日本の律令制における、広域地方行政区画)の68か国の名所絵69作品に、目録1枚を加えた全70枚から成り立っています。