水道橋駿河台

自宅待機の毎日が続くなか、いつのまにか桜も散り、本来ならば日本はゴールデン・ウィークが始まり、端午の節句ももうまもなく、のはずですが、それも今年はままならず。せめてここで鯉のぼりの浮世絵をご紹介しようと思います。
下の浮世絵は歌川広重の名所江戸百景の中の「水道橋駿河台(すいどうばしするがだい)」です。大胆な構図で画面いっぱいに描かれた鯉のぼりは微風にうねって、まるで生きた鯉の滝登りのよう。鯉の右下には神田川にかかる水道橋。遠くには富士山が見えます。家々に揚げられた鯉のぼり。向こうに見えるのは、武家の家のみに許された幟(のぼり)や吹き流し。当時の町人の家では幟を揚げることは許されず。その代りとして鯉のぼりが揚げられるようになりました。
皆さんご存知のとおり水道橋は千代田区と文京区の間を流れる神田川にかかる橋で、寛文12年(1670年)の地図にすでにこの名で載っています。橋の名前の由来は、神田上水の水を江戸市中まで流すための樋(トイ)があったからだそう。今でいう水道管の役割りです。
この絵が刷られたのは安政4年。安政江戸地震(安政元年)から見事に復興した江戸の様子が伺われます。春霞の空の下、若草の香りが漂ってきそうなのどかな風景が描かれていて、鯉のぼりにどこか郷愁を誘われる一枚です。