東海道品川御殿山ノ不二(富士)

新型コロナウイルス拡散防止のため自宅待機の毎日ですが、桜はもう八分咲きとなりました。そこで今月は葛飾北斎がのどかなお花見風景を描いた「東海道品川御殿山ノ不二(富士)」をご紹介いたします。
ここに描かれている御殿山は東京都品川区北品川にあり、その昔、太田道灌が城を構え、徳川家康が江戸城に入ってからは「品川御殿」として鷹狩りの休憩や茶会の会場として利用されるようになりました。その頃に約600本もの桜が移植され、この御殿山一体は市井の人々の桜の名所となりました。
桜の向こうには青空にくっきりと浮かび上がる富士山と品川の海。一番上の群青色の部分は拭き下げぼかしという高度な技術が使われています。左下手前の丘にはゴザの上に緋毛氈を敷いて花見をする豪商と坊主姿の医者らしき男たち。酒器と料理を携帯できる塗の手提げ弁当箱が脇にあり、楽しげに杯をかたむけています。丘の下には子供をおぶう女性と肩車する男性。扇子を広げて踊る人たちや武士の姿も。春のうららかな陽気を存分に楽しむ江戸の人々の日常がうかがえる作品です。この作品は東京富士美術館(東京都八王子市)が所蔵しています。