梅の枝折り

新型コロナウイルスの影響で世界中が騒然となり、さまざまなところでその影響が拡大しています。情報に振り回されて恐々とする毎日ですが、それでも春は確実にそこまで来ています。そこで今月は江戸時代中期の浮世絵師で、美人画で有名な鈴木春信の「梅の枝折り」をピックアップしてみました。当時の江戸では花見といえば桜より梅の花だったそう。
そんな時代背景から梅は浮世絵によく登場します。
侍女の肩に乗って梅の枝を折ろうとしているのは裕福な商人の娘でしょうか?無造作に脱ぎ捨てた草履が地面に転がっている様子からもかなりのお転婆ぶりが伺えます。娘の中振袖の着物は雪をかぶった松と竹の柄。これに梅で松竹梅と縁起物が揃います。ちなみに帯もまた縁起の良い橘の吉祥文様。
着物の雪柄からも推測されますが、この娘はまだ冬の名残りが残る季節に早咲きの梅を見つけ、どうしても欲しくなったのでしょう。年頃も近そうな侍女に担いで貰って無謀な梅の枝折りをする、その初々しい無邪気さが、無機質な塀や華やかな着物の流線とあいまって美しく描き出されています。浮世絵の世界で人物が上下に描かれることはめったに無く、その意味でも貴重な作品といえるでしょう。現在は東京・広尾の山種美術館にて見ることができます。