東京オリンピックが閉幕しました。コロナ禍による一年延期や無観客試合をはじめ異例ずくめの大会だっただけに、選手、指導者、関係者、ボランティアの方々には、終了後の感慨もひとしおでしょう。そして、日本のメダルラッシュの話題は、閉塞感ただよう今の日本にとっても一条の光となりました。
先月の開会式では、元フィギュアスケート選手の荒川静香が、ビデオ映像で登場する場面がありましたが、15年前に彼女が出場したトリノ冬季オリンピックは、今回とは正反対で、日本は金どころか 銅メダルすら一枚も取れない苦戦の連続でした。大会中は、学校でも職場でも、真夜中のテレビ観戦で寝不足の目をこすりながら、誰もがまず落胆と失望の声を上げて一日が始まる有様でした。大会も終盤になって、荒川が起死回生の金メダル(日本選手唯一のメダル)を取ったことで、日本もようやく留飲を下げることができたわけですが、そのインパクトは、彼女の決め技「イナバウアー」がその年の「流行語大賞」に選ばれるという社会現象まで引き起こします。と同時に、演技に使用された音楽も、当時大きな話題となりました。曲は「トゥーランドット」というオペラの中の「誰も寝てはならぬ」というアリア(歌)です。
「トゥーランドット」は、イタリアの作曲家プッチーニのオペラで、中国の北京が舞台ですが、時代も登場人物もすべて架空の物語です。絶世の美女として聞こえの高いトゥーランドットですが、王族や貴族など国の内外からの求婚の申し込みには、一切応じようとしません。それどころか、答えられた者と結婚するという約束で難解な謎を出し、答えられなかった彼らを次々処刑するという残虐極まりない皇女でした。ある時、動乱で祖国を追われ、北京にたどり着いた一人の王子が、このかぐや姫のように難攻不落の女性に挑みます。彼はトゥーランドットの出した謎をすべて解き明かしてしまいますが、有頂天のあまり、今度は逆に姫に向かって「明日の朝までに自分の名前を言い当てたら、貴女のことはあきらめる」と謎を出します。結婚を望まない姫は、全国民に向け「彼の名前を探れ。それまで誰も寝てはならぬ。」とお触れを出しますが、王子は「だれ一人身寄りのない中国で、私を知る者はいない。夜明けよ、早く来い。」と勝利を確信します。そこで歌われるのが、この「誰も寝てはならぬ」です。その後、物語は波乱を経て、真実の愛に目覚めた姫と王子が結ばれ、「誰も寝てはならぬ」を熱唱する民衆の歓呼の声に包まれて幕を閉じます。
闇から光へと転換する、圧倒的な愛の勝利のこのエンディングからは、最近耳にする機会がめっきり減った「大団円」という言葉が、ふと思い出されます。「大団円」は「ハッピーエンド」の古い訳語ですが、ちょうど昔のハリウッド映画のフィナーレのように、敵も味方も手を取り合い、文字通り大きな団円(輪)となり、幸福感に満たされて終わるような場面を見事に言い表した言葉です。
https://youtu.be/w_-qbfreDH4 荒川静香の金メダル演技 (`06トリノオリンピック)
https://youtu.be/rxxHvW0oNpU 「誰も寝てはならぬ」 ルチアーノ・パヴァロッティ (トリノオリンピック開会式)
https://youtu.be/dyZHi-yVESQ オペラ「トゥーランドット」 北京の紫禁城(中国の歴代皇帝の宮殿)での上演
「誰も寝てはならぬ」は開始後1時間22分から 「フィナーレ」は1時間52分から (日英字幕選択可)
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