本当は怖い曲です「アメリアの遺言」スペイン民謡

カナダ出身の歌手セリーヌ・ディオンが1997年に歌った「My heart will go on」は、同年の映画「タイタニック」のテーマ曲でした。アカデミー賞のほとんど全部門を総なめにしたこの記録破りの映画の音楽は、これまた世界を席巻したメガヒットの名曲としても知られています。作曲者は、のちに不慮の事故での急逝が惜しまれたジェームズ・ホーナー。映画音楽のヒットメーカーだった彼には有名な曲が他にいくつもありますが、映画「フィールド・オブ・ドリームス」の音楽もその一つです。(’89アカデミー賞ノミネート)

ちょうど先月、この野球の名作映画にちなんだメジャー・リーグの試合が、アメリカはアイオワで開催されました。試合に先立つセレモニーでは、ボールパーク(野球場)の外野フェンスの向こう側にあるとうもろこし畑から選手たちが入場するという映画さながらのイキな演出が行われました。その時、このテーマ曲もBGMとして使用されましたが、フレンチホルンの独奏で始まるその調べを耳にして随喜の涙を流した野球ファンや映画ファンが大勢いたようです。このように「名作映画に名曲あり」と昔からよく言われますが、映画「禁じられた遊び」もその代表例の一つでしょう。

「禁じられた遊び」(’52フランス)は、第二次世界大戦中、戦災孤児となった5才の少女の悲劇を通して、静かに反戦を訴える映画でした。いとけない女の子が、亡き母を思い出し、目に大粒の涙をためたまま、たった一人で駅の雑踏の中に消え去っていくラストシーンは、観る者すべての涙を誘う名場面として知られています。しかし、全編にわたってただ一つのギターだけで奏でられる哀切に満ちたあの有名な音楽がなければ、この映画の印象はもっと弱まっていたかもしれません。この音楽は、もともとスペインの無名作曲家のギター練習曲をもとにして作られた「ロマンス」という名前の曲でしたが、この映画に使われて以来、「禁じられた遊び」の名称でも呼ばれるようになりました。しかし、実は、この映画に使われていたのはこれだけではなく、スペイン音楽の名作が他にも数曲ギターで弾かれていました。その中の一つにスペイン民謡の「アメリアの遺言」という曲があります。「アメリアの遺言」は、「ロマンス」といずれ劣らぬ強い感銘を与える曲で、この映画以前は、むしろこちらの方がよく知られていました。しかし、映画の中での出番が少なかったこともあって、「禁じられた遊び」の音楽としては、「ロマンス」に比べて影が薄い存在となっています。この曲はもともと民謡だったため、次のような歌詞を持っています。

とある国のアメリア姫は病にかかり、医者ももはや手の施しようがない。実はアメリア姫の夫を略奪すべく、継母が姫に毒を盛っていたのだ。そして、今まさに息を引き取ろうとするアメリア姫は、自分がたくらみを見抜いていたことを継母に告白する―(大略)

このように、まるで「昼メロ」(もはや死語ですね。)でも思わせるような愛憎渦巻く穏やかならぬ歌詞の方は、この映画とは無関係ですが、演歌の「泣き節」にも通じるような、そこはかとなく切ない曲調が、救いのないこの映画の内容とシンクロするため、BGMとして使われたのかもしれません。                                 
https://youtu.be/SPQ_4nWPVgU   「禁じられた遊び」サウンドトラック (3曲収録 4分30秒から「アメリアの遺言」)              https://youtu.be/y0-yM_6odSM    「アメリアの遺言」(スペイン語歌詞)