ホントに400年前? パッヘルベルのカノン

♫雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう きっと君は来ない 一人きりのクリスマス・イブ…♫ 山下達郎の「クリスマス・イブ」冒頭の歌詞です。この失恋の歌にもあるように、恋人どうしがクリスマス・イブをともに過ごすことが日本の習慣(?)となったのは、かなり前のことですが、今でも日本のクリスマス・イブは、キリスト教の信仰とは関係なく、恋人たちの特別な一夜となっています。


そんな世の中の動きをバックに、かつて大ヒットしたテレビCMがあります。JR東海の「クリスマス・エキスプレス」です。それはクリスマスの前夜、遠距離恋愛中の若い男女が、新幹線の駅や駅から出た街の中で束の間の逢瀬に胸躍らせるという、織姫と彦星を思わせるようなストーリー設定でした。そして、テーマ曲として使われた山下の「クリスマス・イブ」は、その後、クリスマスソングのスタンダード(定番曲)の一つとなりました。  

https://youtu.be/zK_eX4Oe5kA 「クリスマス・エキスプレス」CM (JR東海’88~92)

このCMで聴かれる「クリスマス・イブ」は、その一部分だけですが、全曲を通して聴くと、そこにある仕掛けが施されていることが分かります。それは、歌がひと区切りついた後の間奏部分にあります。曲が山下の歌声からコーラスに変わってまもなく、突如として、あの有名なクラシック音楽のメロディーが出現します。しかし、あっと驚く間もなく元の歌声に戻り、後には、その余韻だけがこだまするという鮮やかな仕掛けです。この間奏で使われた音楽は「パッヘルベルのカノン」という曲で、全編に満ち溢れるその穏やかな幸福感から、世界各地のクリスマスのみならず、結婚式などでもよく演奏されるバロック音楽の超人気作品です。

https://youtu.be/7A_80FqmJh4 山下達郎「クリスマス・イブ」 (1分40秒から間奏) 

         ド  ソ  ラ  ミ ファ ド ファ  ソ

https://youtu.be/QBBL-t7CKbU パッヘルベルのカノン (結婚式の映像つき)

パッヘルベルは17世紀ドイツの作曲家ですが、後に「音楽の父」と呼ばれることになるバッハの少年時代にも影響を与えた人物です。彼の「カノン」は1600年代半ばの作ですから、日本でいえば、まだ戦国時代の名残を残す江戸時代初期の曲ということになりますが、400年近く前の作曲とは到底思えぬ新鮮さを今も保ち続けています。その秘密がどこにあるのかと言えば、冒頭の八つの音(ド→ソ→ラ→ミ→ファ→ド→ファ→ソ)がそれです。曲名の「カノン」は「同じ動きを繰り返す」という意味ですが、パッヘルベルの曲では、この八つの音が、最初から最後まで低音パートを中心に延々と繰り返される仕組みになっています。
この八つの音は後に「カノンコード(カノン進行)」と名付けられ、ジャンルを超えて、多くの楽曲を名曲たらしめる陰の力として活躍してきました。現に「クリスマス・イブ」(山下達郎)も、この八つの音をベースにしており、なんと、あのビートルズの「Let It Be」もそうだったのです。それらにとどまらず、現代のヒットソングにもこのカノンコードが多用されていることを考えると、遠い過去の所産であるはずの「パッヘルベルのカノン」が、あたかも彗星のごとく、その長い尾をはるか現代にまでなびかせているということが分かります。

https://youtu.be/Lyh48DIM2RA  カノンコードを使ったヒットソング100曲メドレー (含、山下達郎のクリスマス・イブ) 

https://youtu.be/G0f8vsNadPc   遠い日の歌 (「パッヘルベルのカノン」を原曲とする合唱曲)