桜楓会の皆様、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
さて、1月と言えば「ニューイヤー・コンサート」です。ニューイヤー・コンサートは、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団が毎年1月1日におこなってきたものですが、今では、世界各地のオーケストラが、それを範とした演奏会を毎年開いています。わがバンクーバー交響楽団も、今年の元日、本場ウィーンから指揮者や歌手陣を招き、バレエの演技付きのワルツやポルカなどの演奏で、新春を寿(ことほ)いでくれました。(アンコール4曲!)今回はこうしたニューイヤー・コンサートのプログラムの柱である「ワルツの王」ヨハン・シュトウス二世と、その家族の華やかな音楽にひそむトリビアをご紹介します。
ラデツキー行進曲 作曲は「ワルツの父」ヨハン・シュトラウス一世で、当時、オーストリアが統治するイタリアで起きた独立運動を鎮圧したラデツキー将軍の戦功を称えるためのマーチです。ここ60年あまり、この曲は、ウィーンのニューイヤー・コンサートの最後に、アンコールの大トリとして必ず演奏されてきましたが、ただ一度、2005年の元日だけは演奏されませんでした。それは、その数日前に発生したスマトラ沖大地震の津波による犠牲者への弔意を表すために、お祭り騒ぎは避けるという理由からでした。
https://youtu.be/j0RfeMqHxdY ラデツキー行進曲 ニューイヤー・コンサートのアンコール(2010年ウィーン・フィル)
美しく青きドナウ これもアンコールの定番曲です。隣国プロシアとの戦争に敗れ、疲弊していたオーストリア国民を励ますためにヨハン・シュトラウス二世(長男)が作った曲で、彼らの心の拠り所であるドナウ川に寄せた愛国的ワルツです。もとは歌詞のある合唱曲でしたが、のちに今の管弦楽曲になりました。
「ラデツキー行進曲」も「美しく青きドナウ」も、戦争をきっかけとして誕生したところが何とも皮肉な話ですが、ウィーンのニューイヤー・コンサートも、ナチス・ドイツに併合されたオーストリア国民の不満をそらすために1939年(第二次世界大戦勃発)に始められたものですので、それらは、さしずめ音楽史の
「塞翁が馬」(幸運と不運は裏表でつながっている)といったところでしょう。ちなみにこの曲は、映画「2001年宇宙の旅」で使われたことでも知られています。アポロ宇宙船が月に到達する前の年(‘68)の公開ですので、まだCGもない時代ですが、月面上の映像をはじめとする宇宙空間のリアリティに世界が驚嘆した映画です。映像だけでなく音楽も秀抜で、たとえば、この「美しく青きドナウ」の浮き立つような躍動感と、大宇宙の浮遊感とを見事に融合させたキューブリック監督の卓越したセンスには、今見ても舌を巻くばかりです。
https://youtu.be/wIBEK99ri7U 映画「2001年宇宙の旅」より (1分50秒から美しく青きドナウ)
わが人生は愛と喜び ヨハン・シュトラウス二世の弟、ヨゼフ・シュトラウスの作です。この曲には、三度忘れられて三度リバイバルした歴史があります。彼の死後、1920年にミュージカルのナンバーとしてこの曲が復活し、ウィーンの街角で読み人知らずとして口ずさまれていた頃、愛娘が貧困のうちに栄養失調で亡くなっています。その10年ほど後、映画「会議は踊る」の中でも「新しい酒の歌」として使われましたが、作曲者の名は映画のどこにもクレジットされていませんでした。「愛と喜び」というタイトルとは裏腹なこれらのエピソードもまた、「塞翁が馬」と言えるかもしれません。
https://youtu.be/ZzkJ1bAPVho わが人生は愛と喜び
https://youtu.be/50vW0p7pNSs 映画「会議は踊る」(‘56年リメイク作品)より 「新しい酒の歌」
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