愛する人に夢でお会いしたことはありますか。あるという方は、夢の中でその人と過ごす浮き立つような大きな喜びとともに、目覚めた後の虚しさの大きな落差を感じられたのではないでしょうか。それが、普段なかなか会えない人はむろんのこと、二度と会うことのかなわぬお相手ならば、なおさらのことでしょう。
人は、古代からそういう「夢のあと」の嘆きを歌にしてきました。
思ひつつ寝(ぬ)ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚(さ)めざらましを(小野小町(おののこまち))9世紀
(あの人のことを想いながら眠りについたから、会うことができたのだろうか。夢だと分かっていたら覚めてほしくなかったのに…。)「古今和歌集」
夢の逢(あ)ひは苦しかりけりおどろきて掻(か)き探れども手にも触れねば(大伴家持(おおとものやかもち))8世紀
(夢の中での逢瀬は苦しいものだ。はっと目覚めて辺りをまさぐっても、貴女に触れることもできないのだから…。)「万葉集」どちらも目覚めた後の深い落胆を静かにつぶやいたものです。
古今東西、時代や場所を超えて人は同じことを感じるもので、19世紀フランスの詩人ビュシーヌも「夢のあとに」で、ファンタジー豊かにその思いを描いています。しかし、嘆く気持ちは同じでも、最後の「Hélas!(悲しいかな!)戻っておくれ!あの神秘の夜よ!」という痛切な叫びが、上記の短歌にはない激情を伝えています。(原詩はイタリアのトスカーナ地方の古謡)
この詩は、作曲家フォーレ(19世紀フランス)が曲をつけたことで、ビュシーヌの詩の中でも特によく知られるものとなりました。またそれを巨匠パブロ・カザルスがチェロで弾いて以来、(歌の入らない)器楽の重要なレパートリーにもなっています。
この曲には、婚約破棄の憂き目に遭い、失望の淵をさまよっていたフォーレの胸の痛みが投影されているとも言われています。
https://youtu.be/gJ3qO0FvACY 「夢のあとに」 日仏歌詞付き
https://youtu.be/Xdjosc8HIhI 「夢のあとに」(チェロ版)シェク・カネー・メイソン
https://youtu.be/345VI3ZYsBU 「夢のあとに」(バイオリン版)ジャニーヌ・ヤンセン
最後に今日のイチ押しです。女優で歌手のバーブラ・ストライザンドがオーケストラをバックに歌ったもので、小野小町のごとく、恋多き女と呼ばれた彼女の、ややクセのある歌い口と雰囲気豊かな伴奏が、うたかたの夢の世界にいざないます。
https://youtu.be/PTkgpK2qsVs 「夢のあとに」バーブラ・ストライザンド
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