はきだめに鶴「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲マスカーニ

「ここは天国か?」(Is this heaven?) 映画「フィールド・オブ・ドリームス」の中の名文句です。これをもじって「これは天国の音楽か?」 そう言いたくなるような曲が世の中にはいくつかあります。今回ご紹介する「カヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲」も、その一つでしょう。
「清冽」という言葉を音にしたような澄みきった響きで始まり、オルガンも交えながら至福の感情に満たされて終わるこの曲は、発表以来、クラシックの人気曲の一つとして多くの人に愛好されてきました。「舌を噛みそうな曲名だけど、美の極みのようなこの曲が大好き」という方は多いと思います。しかし、これが、男女の三角関係のもつれから死に至る悲惨なストーリーのオペラの中に置かれた曲だと知って、驚かれる方もまた多いのではないでしょうか。
「間奏曲」という名前は、演劇やオペラの場面と場面、幕と幕の間に演奏される曲という意味です。ですから、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲も、そういった物語の区切りに演奏される音楽ということになります。
「カヴァレリア・ルスティカーナ」は、「田舎の騎士道」と訳される題名で、シチリア島のある村で、一人の女性を巡る男どうしの争いによる決闘が行われ、一人が果てるという結末の物語です。この歌劇は、このようにのどかな田舎を舞台にした、おだやかならぬ愛憎劇ですが、そこにはさまれたこの間奏曲だけが、まるで掃き溜めの鶴のように一服の清涼剤の役割を果たしています。
ところで、三角関係のもつれと聞くと、「万葉集」を思い出す方もいらっしゃると思います。奈良の「大和三山」(畝傍山、耳成山、香具山)を男女の神に見立て、その争いを歌に詠んだのは天智天皇です。そして、天皇自身にも、額田王(ぬかたのおおきみ)という一人の女性を巡る現実の確執が、弟(後の天武天皇)との間にありました。また、多くの男性たちに愛され、彼らの争いに心を痛めた結果、入水して命を絶った「真間の手児奈(ままのてこな)」という女性の言い伝えも、万葉集の中では、古来、人気の高いエピソードの一つです。このように、男女のトラブルは、古くから文学や芸術のテーマの一角を担ってきたのです。
オペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」は、まだ無名時代の作曲家マスカーニ(19世紀 イタリア)が、シチリア島で起きた事実を元に書いた作品です。これを作曲コンクールに応募したところ、見事一位を獲得して、各地のオペラハウスのレパートリーとなりました。ただ、オペラとしては短時間(約70分)の作品のため、同時代の「道化師」(レオンカヴァルロ作曲)という、やはり短時間のオペラと抱き合わせて上演されたり、録音されたりすることがよくありました。ちなみに「道化師」も三角関係による殺人を扱った歌劇で、やはり当時実際に起きた事件を元にして書かれています。これらは後にヴェリズモ(現実派)オペラと呼ばれることになります。
この作品発表後、作曲家として名声を得たマスカーニですが、第二次大戦中ムッソリーニに協力したかどで、終戦後は失脚し、そのまま世を去るという、山あり谷あり、オペラさながらの人生を送りました。
https://youtu.be/2x5ePFBgcuc 

「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲 & 同曲を編曲した「アヴェ・マリア」
https://youtu.be/uUAo2SUv8fQ 

「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲 電子オルガン版