涙のパヴァーヌ ダウランド

シェークスピアは作曲家?ロックスターもカバー


先月崩御したエリザベス女王は、正しくはエリザベス2世です。では1世は?というと、「私はイギリスと結婚した」と宣言して、生涯独身を貫き「Virgin Queen」の異名をとった女王です。(アメリカのバージニア州の名前にその名残があります。)エリザベス1世は、日本の戦国時代にあたる16世紀後半に在位していました。文化的にはシェークスピアの時代です。
シェークスピアは、古今東西の文学や演劇などに大きな影響を与えた劇作家で、その威光は遠く現代にまで及んでいます。昨年話題になった映画「ウエストサイド・ストーリー」も、その ルーツは彼の書いた「ロミオとジュリエット」でした。
それほど世界に親しまれているシェークスピアですが、この人物の真の姿については、深い謎に包まれています。かつて「恋をした シェークスピア」という映画がありましたが、そこでは彼は女性という設定になっていました。一見、突飛に思える発想ですが、こう いった作品が生まれる背景には、「シェークスピアにはゴーストライターがいた」という説が根強く存在するからです。
信じるか否かは個人の自由ですが、その根拠としてよく挙げられるのが、自筆原稿が一枚も存在しないこと、その作品に溢れる 古代から当時までの歴史や文学の深い教養を、一介の市民がどこでどうやって身につけたのかという疑問、イギリス以外の場所を舞台とした作品も多く、その生活や風俗の描写が正確であるにもかかわらず、本人は外国を訪れた形跡がないこと(パスポートすら持っていなかった)、原稿や印税などについての記述が、遺言書に全くないことなどです。さらには、シェークスピアの作品には当時のイギリスの政権批判と読める箇所がいくつもあり、摘発を怖れた真の作者が、偽名で作品を書いたという指摘もあります。
そういう「影武者」の候補として、現在は否定されているものの、ジョン・ダウランドという人物も、そのリストに載ったことがあります。彼はその時代の音楽家で、リュートという楽器の名手でした。リュートはギターと同じく弦を指ではじく楽器で、日本の琵琶とは親戚の関係にあたります。彼はリュートを伴奏とした歌も多く作っていますが、その中で群を抜いて有名な曲が、「流れよ我が涙」です。1600年(関ケ原の合戦の年)に発表されたこの歌は、深い憂愁を湛えた名曲として、18世紀にまで及ぶ超ロングヒットとなりました。今世紀に入っても、人気ロックバンド「ポリス」のリードヴォーカルだったスティングがカバーして、それも評判をとりました。そういった状況は、あたかもシェークスピア作品が今もさかんに上演され、映画化も後を絶たない姿と似ているかもしれません。
流れよ我が涙https://youtu.be/pYgzjjBdaBI 歌詞付き https://www.youtube.com/watch?v=PM2efKgXGvA スティング
「流れよ我が涙」は、「涙のパヴァーヌ」の別名でも知られ、ヨーロッパ全土で人気を博し、楽器用の編曲も多数存在します。 「パヴァーヌ」とは、スペイン起源の舞曲(ダンス)の名前で、Pavo(孔雀)が語源とされています。ちょうど羽を広げた孔雀のように、貴婦人たちが宮廷で優美に舞うための曲種ですが、一説によると、「葬列の曲」とも言われています。そう思えば、エリザベス2世の追悼音楽のようにも聞こえてきます。逝(い)ける女王を偲ぶかのように、今日もどこかでこの曲が流れているかもしれません。
涙のパヴァーヌ (Lachrimae Pavan) リコーダー(縦笛)合奏  https://youtu.be/g2R5o4RkFsE