ドボルザークの裏話&トリビア 2023.02.25 20:05 「その人に対する驚きや興味や尊敬は恋のはじまり。」 私の好きな映画「仮面の中のアリア」(原題 Le Maitre de Musique)の中のセリフです。 そして、愛すれば愛するほど相手のことをより深く知りたくなる。それは人に限らず趣味についても同じことが言えるでしょう。 美術や音楽といった芸術も、予備知識を持つことで、同じ作品が違って見えたり聴こえたりすることがよくあるものです。 今月の巻頭言でご紹介したドボルザークの音楽にも、多くの裏話やトリビアがあります。 その中のいくつかを予備知識の例として挙げてみましょう。あなたの興味をさらに掻き立ててくれるかもしれません。 1.「新世界より」は、ネイティブ・アメリカンの英雄について書かれた「ハイアワーサ」という、当時の書物から影響を受けたと言われ、「遠き山に日は落ちて」の第2楽章は、その中の森における葬儀の場面からインスピレーションを得たものである。 2.「黒人霊歌」(Black spiritual)は、当時のアフリカ系アメリカ人が、奴隷として過酷な生活を送る自らの境遇を旧約聖書のユダヤ民族の受難と重ね合わせて歌っていた宗教的な歌である。「新世界より」には、黒人霊歌風のメロディがいくつか出てくるが、中でも第1楽章のそれは「低く弾め 優しき馬車よ」(Swing low sweet chariot)のメロディと酷似していることが、作品の発表当初から物議をかもしてきた。(作曲者はオリジナルであることを主張) 黒人霊歌「低く弾め 優しき馬車よ」https://youtu.be/QoTGtiriybg 「新世界より」第1楽章 https://youtu.be/nsbsZPcSDVU (3分53秒と6分39秒から酷似のメロディ) 3.「新世界より」の第4楽章の冒頭は、ドボルザークが大好きだった機関車が動き出す様子を描いたものだという説がある。鉄道オタクだった彼には、自分が乗った機関車のかすかな異音から、プロの運転士も気づかなかった車両の故障を察知し事故を未然に防いだ、というエピソードが伝わっている。 「新世界より」第4楽章冒頭(聴き比べ) https://youtu.be/2lfPH_HP690 4.ファとシのない「ドレミソラ」の5音でできたヨナ抜き音階は、世界中に広く分布する調べで、日本の音楽にも古くから見られる。「うさぎとかめ」「こいのぼり」「赤とんぼ」「ぞうさん」「お正月」などをはじめとして、童謡や唱歌にもヨナ抜き音階が多用され、「春よ来い」(松任谷由実)「パプリカ」(米津玄師)など、近年の歌謡曲にも使われている。 映画「男はつらいよ~フーテンの寅」のあのほろ苦いテーマ曲も、ヨナ抜き音階でできているが、作曲者の山本直純は、 ドボルザークのチェロ協奏曲第1楽章の「あのメロディに胸がキュンとなる」と語ったことがある。 並べて聴いてみると、(同一のメロディではないが)ヨナ抜き音階でできた両者の雰囲気がよく似ていることが分かる。
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