水と油の二人⁈結婚行進曲 メンデルスゾーン ワーグナー

今回は6月にちなんで、夏至と「ジューン・ブライド」に関連する作品のご紹介です。          夏至は一年で最も昼の長い日のことですが、昔からヨーロッパでは「聖ヨハネ祭」という 夏至のお祭りがありました(6月24日)。その前夜はmidsummer nightと呼ばれ、魔女や妖精たちが乱痴気騒ぎをするという言い伝えがあります。
このmidsummer nightに起きた出来事を描いた戯曲(舞台脚本)が、シェークスピア(16世紀イギリス)による「真夏の夜の夢」です。これは、登場人物たちの恋模様を  中心とした喜劇で、恋人同士の結婚による大団円(ハッピーエンド)で閉じられます。
「真夏の夜の夢」に魅せられた作曲家は何人もいますが、その中で最も有名な人物がメンデルスゾーン(19世紀ドイツ)です。 彼はこの戯曲の上演に際して、舞台用の音楽を作曲しています(歌劇ではありません)。その中の「結婚行進曲」は、「四季」や「運命」「ハレルヤ」などの作品と肩を並べるクラシック音楽の王道定番曲です。この曲は鑑賞のみならず、結婚式の会場などで使われる実用音楽にもなっています。       

https://youtu.be/rIM5cWB2wmM  結婚行進曲 (真夏の夜の夢 から) 

6月はその結婚式場が大賑わいになりますが、これは「ジューン・ブライド(6月の花嫁)は幸せになる」という言い伝えが元になっています。結婚の女神ジュノーにちなんで、6月がJUNEと呼ばれるのがそのいわれです。また、農業の繁忙期につき結婚が禁じられていた3~5月を経て、6月からは晴れて夫婦になれるというヨーロッパの古いしきたりが元になっているという説もあります。
「結婚行進曲」の作者として、メンデルスゾーンと人気を二分してきたのがワーグナー(19世紀ドイツ)です。彼は、作曲家として名を残しましたが、最初に熱中したのは演劇でした。中でもシェークスピアの「ハムレット」に取り憑かれた少年ワーグナーは、自ら台本を書き、兄弟たちを役者に仕立て、家族の前で演じさせたほどです。それは、登場人物の大半が死ぬというハムレットばりの悲劇でした。後にベートーヴェンの音楽に啓示を受けた彼は、「演劇と音楽の総合芸術」である歌劇の作家として、道を歩むことになります。歌劇「ローエングリン」の中の結婚式の場面で歌われる「婚礼の合唱」が、ワーグナーの結婚行進曲として知られているもので、これも結婚式場の定番です。    

https://youtu.be/HUpineaywOI 婚礼の合唱 (ローエングリン から)


メンデルスゾーンとワーグナー。同時代に同じ国で生を受けたこの二人の天才は、大作曲家の名をほしいままにしました。しかし、その死後、20世紀に入ると、二人の作品は正反対の運命をたどることになります。                                  「ユダヤ人の駆逐」を看板とするナチスがドイツの主権を握ると、ユダヤ系の芸術家たちの作品は、「退廃芸術」として弾圧されることになります。ユダヤ人資産家の子孫だったメンデルスゾーンの作品も、楽譜が焼却され、演奏も一切禁止という過酷な扱いを受けました。一方、ゲルマン民族の優越性や反ユダヤ主義を表現したと言われるワーグナーの作品に心酔したヒットラーは、その思想と作品を守るべく、ワーグナーの遺族が運営する歌劇場を完全な庇護(ひご)の下に置きました。やはりかつてワーグナーへの熱狂をノイシュヴァンシュタイン城建設で表したバイエルン国王が、ワーグナー作品のみを上演するために建てた劇場でした。
戦後、ユダヤ系の芸術は復権を果たし、メンデルスゾーンやマーラーなどの音楽も解禁され現在に至っています。また、その思想はさておき、ワーグナーの物語や音楽に酔いしれる「ワグネリアン」と呼ばれる愛好家たちも、世界には数多く存在します。          しかし、戦後、ユダヤ民族によって建国されたイスラエルでは、80年近く経った今でも、ワーグナーの音楽や録音は、演奏禁止・販売禁止に等しい扱いを受け続けています。