バッハを追いかけて フーガあれこれ モーツァルト ベートーヴェン ロッキー

バンクーバーで最も快適なシーズンの夏が去っていきます。そして、日本より一足早く秋がやってきます。秋のカナダは紅葉が楽しみの一つですね。ただ、涼しさがたちまち寒さに変わっていくのもカナダの秋ですので、それを思うと、去る夏を追いかけたくなる人も多いことでしょう。
昔、「追いかけて♪追いかけて♪」で始まるヒット曲がありました。ザ・ピーナッツの「恋のフーガ」です。

 

https://youtu.be/bS8I95IP9TU  恋のフーガ 

(1967年 すぎやまこういち) 

                            
この曲のタイトルに使われている「フーガ」は、クラシック音楽の形式の一つで、かつて「遁走曲(とんそうきょく)」と訳されていました。「遁」は逃げるという意味で、逃げるメロディを後からメロディが追いかける。つまりメロディの「追いかけっこ」がフーガです。「恋のフーガ」は単に恋の追いかけっこという意味ですので、音楽としてのフーガとは無関係です。本物のフーガは、バロック時代に最も栄えた音楽形式で、中でもバッハ(18世紀ドイツ)のそれは、フーガの頂点に立つものです。また、もう少し正確に言うならば、フーガは「かえるの合唱」のように同じメロディの単純な重なりではなく、メロディを複雑に広げて重ねていく「展開」という作業を伴います。 ※「とんずら」も逃げるという意味の言葉ですが、「遁」(逃げる)と「ずらかる」(逃げる)を合わせた語です。「豚がずらかる」にあらず。余談でした。

https://youtu.be/vITIeoxcfdM 小フーガ  

https://youtu.be/x-zXfkV90fM トッカータとフーガ

(3分28秒からフーガ)


バッハの死(1750年)をもって、バロック音楽は、その豊かな実りに終止符を打ちました。と同時に、彼の音楽もたちまち歴史の闇に埋もれていきます。彼の音楽が再発見され、「音楽の父」とまであがめられるようになるのに、死後1世紀近くを要しました。(キリスト教文化では「父」は「神」を指す言葉でもあります。)しかし、忘れ去られていたはずのバッハの音楽は、ヨーロッパ音楽の底流を地下水のように流れていました。再発見以前からバッハの世界を深く研究していたのが、モーツァルトやベートーヴェンです。「天才は天才を知る」で、彼らのよく知られた作品の中には、バッハの研究やフーガの修練の跡がはっきりうかがえるものがあります。それは古いフーガの単なるコピーではなく、当時の最先端の音楽にフーガ的な考えや音を取り入れたものになっています。

 
https://youtu.be/z7YNvz2J5AM モーツァルト

交響曲第41番「ジュピター」第4楽章

(フーガ風の響きが何度も現れる)


https://youtu.be/P4l8ah2Rvm0 ベートーヴェン

交響曲第3番「英雄」より「葬送行進曲」

(6分00秒からフーガ)

 

https://youtu.be/evWinjC-BuI ベートーヴェン

 交響曲第9番「合唱つき」第4楽章 

(8分09秒と13分30秒からフーガ)

(どちらも「喜びの歌」ともう一つのメロディを重ねるので「二重フーガ」と呼ばれる)

              
ボクシング映画「ロッキー」は、シリーズ化された人気作品でしたが、その第1作にフーガが使用されていたのをご存じでしょうか。映画は本編が終わると「エンドクレジット」と呼ばれる、監督・俳優・スタッフ・関係者などの名前が連なる画面に移行することが一般的です。「ロッキー1」では、このエンドクレジットの音楽がバッハを思わせるバロック風フーガの作りになっています。 

https://youtu.be/j1lj5Xmi9RE 映画ロッキー1 

ラストシーンからエンドクレジット(作曲 ビル・コンティ)
このフーガの主題(主旋律)は、映画の本編で使われた「Going the distance」というナンバーです。

   

https://youtu.be/x8HY1FW3KoM Going the distance  動画の映像は映画本編の別シーンの合成