神戸の町から   ピチカート!

わたくし、生まれも育ちも兵庫県神戸市であります。神戸は、同じ関西圏の大阪や京都よりも土地のサイズは小ぶりですが、意外と日本初のものが多い町です。明治維新とともに開港したこともあってか、舶来のゴルフ、映画、コーヒーは、いずれも全国に先駆けて神戸から始まりました。バレンタインデーは、欧米では男女がプレゼントを贈り合いますが、女性から男性へチョコレートを贈って愛を告白する日本独自の形は神戸発のものです。少し変わったところでは、8時間労働制や、日本で最初に乗客を乗せたエレベーターも神戸が第1号です。その手動式のエレベーター(!)は今も現役です。


のっけから自慢話の羅列のようで恐縮ですが、音楽の世界では、ジャズを日本で最初に演奏したのも神戸です。そのためか、かつては神戸にも数多くのジャズ喫茶やジャズバーが軒を連ねていました。 日本に帰省する際、私はいつも若い頃からなじみのジャズ喫茶やジャズバーにせっせと足を運びます。先月もそうでした。どのお店もLPレコードへのこだわりが嬉しく、中でも、あるジャズバーは、レコードプレーヤーもアンプもスピーカーも工業高校出身のマスターお手製のものです。半世紀以上の風雪に耐え、阪神淡路大震災をも乗り越え、今もしびれるようなサウンドを響かせています。久々にお店のスピーカーの前でバーボンのグラスを傾けながら、ダブルベースの弦を指ではじくピチカートの音に酔いしれ、故郷に戻った実感をしみじみとかみしめた夜でした。  

いかりや長介  アップライトベース(エレクトリック) https://youtu.be/zr39vjliV5g

復興コンサート in 神戸 ‘96  ロン・カーター   ウッドベース(ダブルベース)

https://youtu.be/93o0IlbWCLw

 
ジャズは20世紀に誕生した音楽で、クラシック音楽とは対局にあると思われがちですが、実は両者には共通点がいくつもあります。たとえば、楽譜にはないアドリブと呼ばれる即興演奏や、ソロ楽器が順番に交代する形などは、バロック音楽の特徴でもあります。最初に演奏するテーマ(基本メロディ)を毎回崩しながら繰り返していくモダンジャズのスタイルは、クラシック音楽の変奏曲の形式とコンセプトが面白いほど似ています。そして、このピチカートも、クラシックとジャズの両方に共通する弦楽器の演奏方法なのです。

バイオリンのように弓で弾くはずの楽器を指ではじいて音を出すピチカートは、16世紀の末に誕生したオペラの伴奏オーケストラから始まりました。最初は、せっかくきれいな音を出せる弓があるのに、なぜそれを使わずにわざわざ指ではじくのかと不評でした。しかし、ほどなくしてこの奏法は、作曲家の有効な表現方法の一つとなっていきます。では、ここから先は曲のほとんど、または全部がピチカートで出来ているクラシック作品を年代順にご紹介します。
チャイコフスキー 交響曲第4番より第3楽章  https://www.youtube.com/watch?v=e90IXc4gaII 
ヨハン&ヨゼフ・シュトラウス(兄弟合作) 「ピチカート・ポルカ」    https://youtu.be/yhv7irP2b3E 
※ バンクーバー交響楽団の前のシェフ(正指揮者)だった故ブランウェル・トーヴィ氏が、2020年に
世界的な音楽祭「プロムナードコンサート」(英)に招かれた際の映像。(コロナ禍につき無観客)                       
ベンジャミン・ブリテン(英)「シンプル・シンフォニー」より第2楽章  https://youtu.be/8M66GwhA2EU 
ルロイ・アンダーソン (米)「プリンク・プレンク・プランク」  https://youtu.be/eFsx8EPZ4pk 

 

                                                                                          (記 丸尾豪司)