神無月ここにも一人二刀流 むすんでひらいて ルソー

10月に入って、日本もアメリカも、今年のプロ野球のレギュラーシーズンが終了しました。メジャーリーグでは、あの大谷翔平選手がホームラン王のタイトルを獲得。これは、大リーグの長い歴史の中でも、日本人選手初の快挙です。その昔、同じ北米カナダの野球リーグで、連覇記録を重ねていた日系のバンクーバー朝日軍の野球が、バントや盗塁などの小技(スモール・ベースボール)を売り物としていたことを思い起こせば、この日本製の長距離砲の栄誉には隔世の感があります。大谷選手は、よく知られているように投手と打者の両方で活躍する二刀流の選手ですが、これまでに彼が残してきた成績は「二刀流が成功するはずがない」「野球をなめるな」といったプロ入り当初から浴びてきた数知れない批判を、鮮やかに封じ込めるものとなりました。
これも昔のお話になりますが、内藤国雄九段という将棋の名人にして、名高い演歌歌手がいました。こちらも二刀流と呼ぶべき存在で、一時はどちらが本業か分からないほどの活躍ぶりでした。ちょうどその頃、たまたまこの方の講演を聞く機会がありました。失礼ながら、将棋にも演歌にもこれといって関心のない自分でしたが、お話が始まるや、たちまちその話術のとりこになってしまったことを覚えています。そして、講演の最後に名人の生の歌声で聞いた演歌「おゆき」が、今も耳に残っています。

https://youtu.be/M3f3dEPn8nk?t=29 

おゆき 内藤国雄


その講演の中で、内藤氏は名人への道を歩んだ労苦とともに、趣味が高じて歌の世界にも足を踏み入れた経緯について、面白おかしく語ってくれました。歌手デビューするや、それまで好意的だった人々の多くが否定的な目を向けてきたとかで、あるお友だちは、その年の年賀状にただ一言「二兎を追う者は一兎をも得ず」と書いてきたそうです。これも大谷選手と共通するお話です。
ジャン・ジャック・ルソーは、偉大な思想家・啓蒙家・教育者としてその名を歴史に刻んだ人物です。彼の思想の影響は、後のフランス革命など市民改革にも及んでいると言われます。しかし、彼が本当に望んだものは、作曲家として認められることでした。ルソーはいくつかの曲を残しており、その中には今でも演奏や上演されるものがあります。その一つである歌劇「村の占い師」の中の一曲は、やがて讃美歌となり、アメリカ経由で明治期の日本に輸入され、お遊戯の歌「むすんでひらいて」の原曲となりました。


https://youtu.be/71Et4YRySZk?t=295 

ヴィヴァルディ「四季」より春  ルソーによる編曲(フルート独奏)

https://youtu.be/oQt8FLXINHo?t=58

「村の占い師」よりパントマイム 1曲目が「むすんでひらいて」の原曲(1分16秒まで)

https://youtu.be/2IeaowJZe64      

同曲のピアノ演奏 楽譜付き (1曲目が「むすんでひらいて」の原曲) 


フランス革命で、夫である国王ルイ16世とともに断頭台の露と消えたマリー・アントワネットにも作曲した作品がいくつか残されています。と言うと、どうせ素人の手すさびか、ゴーストライターのしわざじゃないの?そんな声が聞こえてきそうですが、研究家によれば、彼女の作曲はかなり信憑性の高いもののようです。最近も、マリー・アントワネットの音楽について研究を重ねてきたフランス在住の日本人女性歌手が、その歌曲を歌って録音したCDを世に出すなど、この分野は今後も研究の深まりを見せる気配があります。


https://youtu.be/zFdw0gNCrwk 

それはわが恋人か マリー・アントワネット作曲


フランスに嫁ぐ前、オーストリアの皇女だった時代に彼女が習っていた作曲の先生の中には、オペラ作曲家のグルックがいます。


https://youtu.be/QgfcUePpqBQ 

精霊の踊り グルック作曲 歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」より