実は兄弟がいたんです 威風堂々 ジムノペディ  エルガー サティ

明けましておめでとうございます。この巻頭言も私が担当して4年目に入りました。今年もよろしくお願いいたします。
昨年の暮れも押し詰まった12月末、ビートルズの「レット・イット・ビー」がネットニュースの記事になっていました。この名曲には、なんとシェークスピアの「ハムレット」が関わっていたというものです。作曲者のポール・マッカトニーによれば、彼が十代で死別した母が後に夢に現れた時に、「let it be」という言葉を彼に伝えたそうです。それは、彼が学生時代に暗唱させられた戯曲「ハムレット」の中で、主人公が何度か発するセリフでした。夢とはいえ、母と再会できて、さらにこの言葉を賜ったことで傑作が生まれたことを懐かしく語るポールでした。                       ルネサンスと20世紀の天才二人。彼らを結ぶ不思議な縁(よすが)についての、この記事を読んだ私の脳裏には、やはりシェークスピアがらみの別の曲が浮かんできました。エルガー(20世紀イギリス)の行進曲「威風堂々」です。                            このマーチの原題は「Pomp and circumstance」ですが、これもシェークスピアの傑作「オセロ」の中のセリフでした。この古い言葉を直訳すると「盛儀盛宴」や「華麗なる行列」などになるそうですが、今では「威風堂々」という意訳タイトルが定着しています。
1901年作のこの曲は、同年崩御したビクトリア女王の長男として王座に就いたエドワード7世の戴冠式でも演奏されました。新国王は「あの(中間部の)メロディは世界中の人々が聴くことになるだろう。」という「予言」を残しましたが、果たしてそれは見事に的中しました。ちなみにエドワード7世は、カナダのプリンス・オブ・ウェールズ島の名の由来となった国王です。

https://youtu.be/N8X7EARevp4   行進曲「威風堂々」 (1分26秒からあの有名なメロディ)


ところで、「威風堂々」という行進曲は、全部で五つあることをご存じでしょうか。エルガーは、同じタイトルのマーチを五つ書いて、それに1から5までナンバリングしていたのでした。圧倒的人気を誇る第1番に次いでは第4番がよく演奏されます。https://youtu.be/200EZN8Ka6c   行進曲 「威風堂々」第4番  (1分42秒からの中間部のメロディも親しまれている)


このように単独の名作と思われていながら、実は連作だったという例は他にもあります。たとえば、バイオリンやフルートなど様々な楽器にアレンジされて親しまれているドヴォルザークの「ユーモレスク」は、同じタイトルの連作ピアノ曲集の第7番です。映画やドラマ・CMなどでもおなじみのエリック・サティ(20世紀フランス)の「ジムノペディ」も、3曲セットとして発表された作品でした。

https://youtu.be/5AXTnpFZj78 ユーモレスク第7番

https://youtu.be/aSnw28dz2DM  ジムノペディ全3曲  

                     
スポーツ選手の背番号は、もともとは1から始まる自然数でできていましたが、最近は、野球選手の背番号などに「0」や「00」を見かけることが珍しくなくなりました。同じように、音楽作品のナンバーでも、ブルックナー(19世紀オーストリア)のように第0番や第00番といった交響曲を書いた作曲家がいます。さらに、分数ナンバーの交響曲を書いたのが、20世紀アメリカのドン・ギリスです。彼の交響曲第5½番は、人を食ったようなタイトルとはうらはらに、明るさとユーモアを兼ね備えたアメリカ音楽の佳品です。           https://youtu.be/MLAhm9B6Jis ギリス 交響曲第5½番   

https://youtu.be/bpJpRo6YL34  同曲のライブ演奏 

イタリアの現代作曲家、ルチアーノ・ベリオには「作品番号 第獣(じゅう)番」という曲があります。原題は「Opus(オーパス) number(ナンバー) zoo(ズー)」です。Opusは「作品」のことですが、zooに「獣」と「十」を掛けたダジャレセンス抜群?の迷訳でした。