ストーカー殺人事件  幻想交響曲 カルメン  ベルリオーズ ビゼー

4月は「エープリルフール」で始まりました。それに対して4月の最後は「ワルプルギスの夜」で閉じられることをご存じでしょうか。ワルプルギスの夜とは4月30日の夜を指します。この夜から翌日にかけて、魔女たちが集会(サバト)を行い、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が騒ぎ回るという言い伝えがあります。ゲーテの戯曲「ファウスト」には、このワルプルギスの夜が二度にわたって描かれます。ベルリオーズ(19世紀フランス)の画期的作品「幻想交響曲」に登場するワルプルギスの夜もよく知られています。 
「幻想交響曲」は、単刀直入に言えば、ストーカー殺人をめぐるファンタジーです。夢の中で、嫉妬に狂ったあげく恋人を殺し、ギロチンで処刑された主人公の魂は、ワルプルギスの夜をさまよい、魔女に変容した恋人に遭遇します。そして最後は、激しい動揺と物の怪たちの喧騒のうちに幕が閉じられます。
https://youtu.be/W-O8vNECQtk
  断頭台(ギロチン)への行進 (幻想交響曲 第4楽章) 井上道義 NHK交響楽団     
この動画は指揮者の表情豊かなポーズにも目を向けると興味深いかもしれません。特に4分13秒からの斬首ポーズは必見!?
https://youtu.be/oW3XQAorqhQ
  ワルプルギスの夜の夢 (幻想交響曲 第5楽章)  小澤征爾(32歳と43歳の比較)    


弔いの鐘(2分47秒)に続いてチューバが奏でるメロディ(3分11秒)は、グレゴリオ聖歌の「怒りの日」です。グレゴリオ聖歌は、キリスト教の数ある聖歌の中で最もよく知られたもので、その中でも「怒りの日」は特に有名です。「怒りの日」とは最後の審判を指しますが、死そのものを表すことがあります。  https://youtu.be/0CqZLjiH9aE  「怒りの日」 グレゴリオ聖歌

   
ベルリオーズは典型的な激情型の芸術家でした。それはほとんど狂気に近いものだったと言えます。幻想交響曲は、恋の苦しみから逃れるためにアヘンを飲んで命を絶とうとした主人公が、生死の境で見た悪夢を描いていますが、それは作曲者自身の絶望的な恋愛体験から生み出されたものです。相手の女性は、とあるシェークスピア劇団の人気女優でした。偶然、彼女の舞台を見た彼は正気を失うほど興奮し、彼女のこと以外何も考えられなくなります。必死の思いで恋心を伝えたものの、エキセントリックで貧しい無名の作曲家のことなど、花形女優が相手にするはずもありません。絶望に打ちひしがれ、眠ることもできず、冬のパリを野良犬のようにさまよい歩く彼を、友人のリストやショパンが一晩中探し回ったと伝えられています。


ナイーブという言葉は日本語では褒め言葉ですが、本来は世間知らずという意味です。幻想交響曲の主人公のようにナイーブな青年が、自分を誘惑した海千山千の妖艶な女性を追い回したあげく、ストーカー殺人を犯すのがビゼー(19世紀フランス)の歌劇「カルメン」です。これは今でこそ、世界各地で上演される人気作ですが、初演当時は悪評の嵐でした。音楽的な斬新さに加え、歴史上、オペラという分野がギリシャ神話やギリシャ悲劇の復活を目指して興ったことに理由があります。女神やニンフ(妖精)や清廉な女性しか登場しないはずだったオペラの世界に、「カルメン」が初めて「性」を持ち込んだことが批判を浴びたというわけです。https://youtu.be/ulWFtoU1v-k 「カルメン」 あらすじ     https://youtu.be/hHDLd1nW1SU   カルメンの死 「カルメン」最終場面  日本語字幕

https://youtu.be/vPZcBmZSj-Y   カルメンの死 「カルメン」最終場面   英語字幕

「恋に狂う」だって?言葉が重複しているよ。恋とはすでに狂気なのだ。(ハイネ)


(記 丸尾豪司)