おそるべき17歳  モーツァルト メンデルスゾーン ビゼー

14の時は二度とない。そういう言葉を残した人物がいます。徳川家康の息子の一人、徳川頼宣(よりのぶ)です。大阪冬の陣で侍として初陣を飾った彼は、翌年5月の夏の陣では、先陣(先駆け)を希望しました。しかし、まだ14歳という若さを理由に家臣たちに願いを却下されてしまいます。悔しさのあまり彼の口から出たのがこの言葉です。先陣の夢は叶わなかったものの、怖れを知らぬその気概と自負を、父の家康は褒め称えたと伝えられています。
頼宜は徳川御三家の一つ、紀州徳川家の家祖となった人物ですので、少年時代からすでに大人物の頭角を現していたのかもしれません。(ただし、当時は15歳が成人⦅元服⦆ですから14歳は大人の一歩手前の歳となります。)なお、時代劇で人気のある「暴れん坊将軍」徳川吉宗は、彼の孫に当たります。
フランス語に「恐るべき子ども」という意味の「アンファン・テリブル」(enfant terrible)という言葉があります。もともとは、年齢にあるまじき不適切な言動によって、大人を困惑させる子どものことを指していましたが、次第に大人顔負けの才覚を持った子どもにも使われる言葉になりました。この徳川頼宜も、そういった意味で「恐るべき子ども」というべき存在だったのかもしれません。
幼くして非凡な才能を見せる子どもは、しばしば「神童」の名で呼ばれます。しかし、「大人になればただの人」と言われるように、神童がその才を末永く持ち続けるのは難しいことのようです。今回は、音楽の神童たちの中でも、後に大成し歴史に名を刻んだモーツァルト、メンデルスゾーン、ビゼーの作品をご紹介します。いずれも大人の一歩手前だった17歳の作です。しかし、どれも熟練した音楽家と見まごうばかりの天衣無縫(てんいむほう)ぶりで、間然するところの全くない驚嘆すべき出来栄えです。さらに、この3人は、美しい旋律を生み出す希代のメロディメーカーだった点や、三十代で早世した人生などの面でも共通しています。
★映画「アマデウス」のヒットで広く知られるようになったモーツァルト17歳の交響曲第25番は、疾風怒涛(しっぷうどとう~シュトルム・ウント・ドランク)の曲です。これは、晩年(35歳)の交響曲第40番と同じト短調のため、「小ト短調」と呼ばれることがあります。 

https://youtu.be/LBfeOYaxZTQ 交響曲第25番(第1楽章) 

https://youtu.be/PF69YpR42ek 交響曲第40番

  
★昨年6月にご紹介したメンデルスゾーン(19世紀ドイツ)の結婚行進曲は、シェークスピアの「真夏の夜の夢」のための劇音楽(BGM)でした。この音楽の大半は彼が34歳の頃に書かれましたが、開幕に先立って演奏される「序曲」だけは、17歳で作曲されています。序曲から最後の曲まで通して聴いてみても、繋がりの上で何の違和感もないのは、やはり偉とすべきことです。序曲は魔法の世界にいざなうフルートで始まり、最後も夢見るようなフルートの音で閉じられます 

https://youtu.be/1MrOHB8C0L8  「真夏の夜の夢」序曲

 
★歌劇「カルメン」や劇音楽「アルルの女」で親しまれているビゼー(19世紀フランス)ですが、17歳で作曲した交響曲第1番は、第1楽章の皐月(さつき)の風のごとき爽やかさや、オーボエによる哀愁に満ちたメロディーの第2楽章など、随所に才能の片鱗が顔を出します。 

https://youtu.be/0QR7ego3_so 交響曲第1番 
第2楽章のオーボエによる旋律は、ポピュラー音楽にもなっていて、まさにメロディメーカーの面目躍如です。 

https://youtu.be/WuKk2pxFoDY  theme of a summer night   ノーマン・キャンドラー・オーケストラ
                                                          

(記 丸尾豪司)