機関車・ラグビー大好き男  パシフィック2‐3‐1      オネゲル

日本では、6月末から夏の「全国高校野球大会」地方予選の火ぶたが切って落とされます。気温がすでに30度を超えている地域も多く、8月末の甲子園球場における日本一決定まで、暑い熱い戦いが続いていきます。夏の全国高校野球選手権は100年を優に超える大会ですが、近年の地球温暖化による気温上昇にともない、その運営方式にも変化が見られ始めました。昨年度から、試合途中での10分間のクーリングタイムが導入され、今年は、気温が最も上昇する日中を避け、試合を午前と夕方の二部制にするなど、苦肉の策が取られるようです。酷暑の中での開催そのものに厳しい目が向けられている昨今、この大会が今後どのような姿になっていくのか注目されます。
それに比べると、カナダ(特にバンクーバー近郊)の夏は、暑いとは言っても、まだまだしのげる範囲のものです。朝夕は、長そでを羽織らないと寒さを感じる日が多いなど、日本では想像もつかない環境が、今のところは維持されていると言えるでしょう。
今回は、そうしたカナダの穏やかな夏にふさわしい曲の紹介からです。20世紀前半のスイス系フランス人にオネゲルという作曲家がいます。彼の人気作の一つが「夏の牧歌」です。ヨーロッパの夏ののどかな情景を音で表した曲ですが、気候的にはかの地に近いカナダの風景も眼前に浮かびくるような作品となっています。 

オネゲル  夏の牧歌  https://youtu.be/DbfhzbaH2iQ

オネゲルは、機関車とスポーツが大好きでした。彼には3曲がセットになった「交響的運動」という作品がありますが、その第1曲「パシフィック2‐3‐1」は、機関車を題材としています。曲の題名は、当時のアメリカの大型機関車のことで、前輪2,中輪3、後輪1を持った型を表しています。「人が女や馬を愛するように私は機関車を愛する。この曲は、機関車の騒音の模倣ではなく、ビジュアルな印象や、肉体的な悦びを音楽に移そうとしたものである。曲は、静止した巨大な鉄の塊が、目覚めるように呼吸を始め、徐々に前進して、やがて時速120キロで疾駆する300トンの汽車は恍惚とした状態に達する。」と彼は述べています。

パシフィック2‐3‐1 https://youtu.be/ENodAiqSkeU 

交響的運動第2番は「ラグビー」 と名付けられています。これは、常に動き回るスポーツを表現しているようですが、どういう場面なのかは聞き手の想像に任されているようです。

ラグビー https://youtu.be/H0u6iKoNCVo バーンスタイン指揮

第3番は「スキー」の名で呼ばれることがありますが、もともとは無題でした。また3曲の中で最も演奏頻度の低い作品です。ただ、この3曲目を初演したのは、トスカニーニと並ぶ20世紀最高の指揮者、フルトヴェングラーだったことを付記しておきます。

ここまでお読みになった方は、オネゲルのことを、アウトドアが大好きな能天気の作曲家という印象をお持ちになったかもしれません。しかし、彼は、これらの明るい音楽とは裏腹に、筋金入りのペシミスト(悲観主義者)、俗にいう根暗でした。オネゲルの有名な著作に「私は作曲家である」がありますが、これを読むとそのペシミストたる所以(ゆえん)が、手に取るように分かります。そして、20世紀から後の音楽の未来について、絶望的ともいえる見方をしていたことが痛いほど伝わってきます。人には表と裏の顔があるのかもしれません。
彼のシリアスな作品としてよく演奏されるのが交響曲第2番と第3番ですが、いずれも故国フランスがドイツに占領された大戦中から戦後すぐの苦しい時期に書かれました。敬虔なクリスチャンだった彼は、第3交響曲に教会の礼拝の言葉を引きながら作曲を進めたのでした。

オネゲル 交響曲第3番「礼拝」https://youtu.be/jK9mGN7KZg4                       

やはりフランスのカトリックの作曲家メシアンも、大戦中、聖書を元に「世の終わりのための四重奏曲」という作品を捕虜収容所の中で書いています。バイオリン、チェロ、ピアノにクラリネットという珍しい編成ですが、こちらもよく演奏されます。   

記 丸尾豪司