昔から「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」というとおり、すっかり日の入りが早くなりましたね。 最近は「釣瓶」を知らない人も増えてきて、このことわざもあまり通じなくなりましたが…。
秋の夜長は、虫の音を楽しんだり読書にいそしんだりするのが、この季節定番の過ごし方でした。 しかし、なかなか寝られないという、いわゆる「不眠」の人にとって、夜の長い秋から冬にかけては、逆に苦痛のシーズンなのかもしれません。
村上春樹の小説に「眠り」という短編があります。ある日全く眠れなくなってしまった一人の主婦が、その時間を有効に活用すべく、長らく手に取ることのなかった本を読みはじめ、やがて、深夜一人で車に乗って外出する毎日を送るようになるというお話です。彼女はその中で、結婚生活のルーティンに埋もれて失われてきた自己を確認し、目覚めていくことになりますが、この場合、不眠は主人公の人生に何らかの啓示をもたらすものとして描かれているのかもしれません。。
クラシック音楽にも、読書と同じく、不眠の友とも言うべき傑作があります。バッハの「ゴールトベルク変奏曲」です。 昔、不眠症に悩むある貴族がいました。彼は屋敷で雇っていた若い音楽家に、眠れぬ夜を退屈せずに過ごせる音楽を所望します。やがて、その話が彼の師であるバッハに届いて作られたのがこの曲です。したがって、これは眠るための音楽ではなく、夜長を豊かに過ごすために作られた作品ということになります。曲名の「ゴールトベルク」は、その弟子の名前で、主題(基本のメロディー)のあとにその変奏が30回続くという構成になっています。
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