陽はまた昇る「夜明け」   グリーグ ラヴェル レスピーギ R・シュトラウス

霜月(しもつき)の名のとおり、冷え込みの厳しい11月です。それに加えて、雨が多く夜も長い バンクーバーともなると、夜明けの光が千金に値しますね。いかに高度な社会生活を営んだとしても、人間も結局は動物の一種ですから、宇宙や地球環境のリズムの中で生きています。朝の日光を浴びるのが心身の健康に良いという説は正しいそうですが、天候不順の日々にも、あけぼのを描いた音楽で、太陽のイマジネーションを膨らませるのは悪くないかもしれません。ということで、今回は「夜明け」の名曲です。

曙光を描いた音楽の中で筆頭に挙げられるのは、グリーグ(19世紀ノルウェー)による劇音楽「ペール・ギュント」の中の「夜明け」 です。映画・ドラマ・CMなどでもよく使われる日の出の清涼感あふれる作品です。 https://www.youtube.com/watch?v=mv4cx3C3SZ4&pp=ygUm44Oa44O844Or44Ku44Ol44Oz44OIIOacneOAgE90dG8gVGF1c2s%3D   
「ペール・ギュント」組曲 1曲目が「夜明け」指揮Otto Tausk (現VSO指揮者)
「ペールギュント」の「夜明け」は、北アフリカ、モロッコ海岸の日の出の情景を描いた作品ですが、なぜかこれが山中の夜明けに聞こえてしかたないという人もいます。その中には有名な音楽学者もいますが、皆さんはいかがでしょうか。 
同じ海岸でも、今度はエーゲ海の日の出をどうぞ。20世紀フランス、ラヴェルのバレエ音楽「ダフニスとクロエ」 の中の「夜明け」です。薄明の中から陽の光が徐々に広がり、やがてすべてが輝き出す情景が眼前に広がるようです。https://youtu.be/L06QJdc9xFQ  「ダフニスとクロエ」第2組曲 1曲目が「夜明け」  デュトワ指揮モントリオール響
さて、海の次は、水つながりで噴水の夜明けです。20世紀イタリアのレスピーギによる交響詩「ローマの噴水」は、有名な「トレヴィの噴水」などを含む4つの噴水の情景を描いた作品ですが、その第1曲が「夜明けのジュリアの谷の噴水」と名付けられています。これは、ラヴェルと同じラテン系の朝の名曲として知られています。       https://youtu.be/gCw67rdkRmQ  
ローマの噴水 1曲目が「夜明けのジュリアの谷の噴水」 小澤征爾 ボストン響
独特の世界観でコアなファンの多い歌手青葉市子は中学時代、吹奏楽部に所属していました。そこで演奏した曲の中で、この「ローマの噴水」が特に好きだった彼女は、後にリリースしたアルバムにこの曲のアレンジを取り入れています。
https://www.youtube.com/watch?v=woiOtPvdM2M&pp=ygUn5aSc5piO44GR44Gu44K444Ol44Oq44Ki44Gu6LC344Gu5Zm05rC0   
夜明けのジュリアの谷の噴水  青葉市子 歌
最後は、30歳にして山中に籠って悟りを開いた人物が主人公の「ツァラトゥストラはかく語りき」です。それまで信仰の対象だった神に代わる「超人」という存在について綴られたのがニーチェの同名の哲学書です。そこからインスパイア された20世紀ドイツのリヒャルト・シュトラウスの書いた交響詩の冒頭は、悟りを開いたツァラトゥストラが昇りくる太陽に向かい語りかける場面です。
https://youtu.be/M-2ed2hY6Ck 
「ツァラトゥストラはかく語りき」冒頭 カラヤン指揮BPO 
なお、ツァラトゥストラの名は、古代ペルシャで火を神聖なものとして崇めた人物、ゾロアスターのドイツ語読みです。彼を教祖とするゾロアスター教は、日本では明治期より「拝火教」の訳名で知られていました。詩人、高村光太郎が亡き妻を偲んでつづった詩集「智恵子抄」(1941)にも、「拝火教徒」という形でこの名称が登場します。