♪春は名のみの風の寒さや 谷の鶯(うぐいす)歌は思えど時にはあらず♪
春の歌「早春賦」の冒頭です。日差しは明るくなったとは言え、この歌のように朝晩の冷え込みにはまだ冬の名残があります。しかし、最近はこの歌とちがって、鳥たちが 軽やかな鳴き声を聞かせてくれるようになりました。
古来、鳥の鳴き声を模した音楽は山ほどありますが、今回はその中から、20世紀 イタリアのレスピーギの組曲「鳥」をご紹介します。「鳥」は全5楽章から成る管弦楽曲で、各楽章には①「前奏曲」②「はと」③「めんどり」④「夜うぐいす」⑤「かっこう」のタイトルがあります。 https://youtu.be/IdDQEQwfD84 レスピーギ 組曲「鳥」 ウクライナ青少年オーケストラ2024
組曲「鳥」には原曲があります。鳥を題材とした17~18世紀のハープシコード(チェンバロ)の曲で、作曲者はイタリアのパスキーニ(①⑤)、フランスのガロー(②)やラモー(①③)などで、作者不詳のイギリスの曲(④)も含まれています。
https://youtu.be/-vj3ewnVlGY ラモー「めんどり」 庭を走り回る鶏の姿が目の前に浮かびます。
https://youtu.be/xwnzNHXkLms 不詳「ナイチンゲール(夜うぐいす)」 あの有名な看護師さんと同じ名前の鳥。
https://youtu.be/-XxinVO2QCM パスキーニ「かっこうのトッカータ」 トッカータは鍵盤楽器用の曲名。
レスピーギはボローニャ生まれの作曲家です。(パスタでよく使われる「ボロネーズ」という語は「ボローニャ風」という意味です。)しかし、後に移り住んだローマに魅せられ、終生この永遠の都を愛しました。彼のローマ愛は代表作の「ローマの噴水」「ローマの松」「ローマの祭り」のローマ三部作に余すところなく表現されています。彼は当地の音楽院の学長を務めていたため、古い時代の楽譜や音楽の文献を自由に紐解くことが許される立場にいました。そういった古い音楽に当世風のアイデアを加えながら、新たな作品として組み立て直すことで、忘却の彼方に消えていたはずの楽曲たちに新たな命を吹き込んだのでした。組曲「鳥」も、そうやってバロック音楽を元にして世に送り出された愛らしい作品です。
バロックという言葉は、もともと美術用語として生まれましたが、当初はネガティブな意味で使われていました。いわゆる蔑称です(今は人気の「印象派」「キュビスム(立体主義)」なども蔑称からのスタートでした。)。それ以前のルネサンス美術が厳格さや崇高さや構図の安定感を身上としていたのに対し、動的な構図や世俗的な題材、光と影や色彩の対照などに表現の中心が移行していったこの時期の作品に「いびつな真珠」を意味する「バロッコ」(ポルトガル語)から名付けられたものです。一方、同時代の音楽もまたルネサンス音楽に対し、明暗、強弱などのコントラストや楽器の発達による表現の幅の広がりなどから、バロック音楽と呼ばれるようになりました。
したがって、レスピーギの「鳥」は、「いびつな真珠のアクセサリー」とでも呼べる曲種かもしれません。
最後に同種の作品として、ストラヴィンスキーがペルゴレージやガッロなどの作曲家たちの音楽を原曲としたバレエ音楽「プルチネルラ」をご紹介します。バーバリズム(原始主義)が横溢する彼の「春の祭典」からは想像もつかない明朗闊達な音楽です。それはちょうどこのバレエの舞台装置と衣装を担当したピカソが、キュビスムの後もしばしば古典的な作風に舞い戻った姿を思い起こさせます。 https://youtu.be/J_E7w9P8x5o 「プルチネルラ」組曲 ストラヴィンスキー(20世紀ロシア) 記 丸尾豪司
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