で描く絵画 水の戯れ ラヴェル

風そよぐ 楢(なら)の小川の 夕暮れは 禊(みそぎ)ぞ夏の しるしなりける (藤原家隆)

 
生涯に6万を越える歌を残した平安時代の歌人の作で、百人一首にも収められている歌です。何気なく読むと、川の表に爽やかな風のそよぐ夏の夕暮れの風景が浮かんでくるかもしれません。しかし、実は「秋近し」の歌なのです。「すっかり秋めいた風が冷ややかな夕方だが、川の中の禊で、かろうじてまだ夏だということに気づいた」というのがこの歌の内容です。禊は川の水で自らを 清める儀式で、夏の終わりと冬の終わりに行われていました。この場合はむろん前者を指します。
日本は先月、観測史上最も暑い6月となりました。近年のバンクーバーの夏も、地球温暖化の影響で暑くなってきましたが、 日本に比べればまだまだ過ごしやすい気候ですので、かえってこの歌の言わんとするところが理解しやすいかもしれません。来月の今頃は、すっかり秋の気配が押し寄せている可能性が高いので、これから短い夏本番を楽しみたいものですね。
今年が生誕150年に当たるラヴェル(20世紀フランス)のピアノ曲「水の戯れ」は、そんな夏の盛りにふさわしい音楽と言えるのではないでしょうか。これは彼の代表的なピアノ作品の一つですが、日の光にきらめく水のほとばしりが目に見えるような、音による絵画ともいうべき曲です。  
https://youtu.be/F-mMhJ2UvWY?list=RDF-mMhJ2UvWY  水の戯れ ラヴェル                     
ラヴェルには、恋した人間の男性に拒絶されて消え去る水の妖精を描いた「オンディーヌ」という曲もあります。これも、さざ波の中に踊る妖精の様子が目に浮かぶようです。 https://youtu.be/Kwxm6uoU-B4?list=RDKwxm6uoU-B4 オンディーヌ ラヴェル
ラヴェルと同時代のレスピーギ(イタリア)にも、水を扱った傑作があります。交響詩「ローマの噴水」です。夜明けから日没までの 4つの時間帯の中で、後ろ向きにコインを投げると再びローマに戻れるという言い伝えの「トレヴィの噴水」など、4つの噴水が登場します。(ちなみに、私も昔ここでコインを投げましたが、いまだにローマ再訪のチャンスは巡ってきません…。) 今回はこの交響詩の第2曲「朝のトリトンの噴水」をご紹介します。海の神トリトン(トリトーネ)が海面に姿を現し、ほら貝を吹く様子を表した彫刻(ベルニーニ作)で知られる噴水です。ほら貝を模したホルンのファンファーレに続いて、やはりきらきらとした水の躍動が眼の前に 浮かんできますが、ここでのフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットなどの木管楽器や打楽器の扱いは見事の一言です。
ttps://youtu.be/9lUjpeEcqB8?list=RD9lUjpeEcqB8  朝のトリトンの噴水 レスピーギ (彫刻の写真つき)
時あたかも先月、躍進を続ける日本人指揮者、山田和樹がベルリン・フィルの指揮台に立ちました。日本人としては13年前の佐渡裕以来のことですが、今回、山田が選んだ曲にも、この「ローマの噴水」が入っていました。他にも、世界にその名を知られる日本人作曲家、武満徹の「ウォーター・ドリーミング」という曲も取り上げられましたが、これも水に関連した作品でした。なお、13年前の佐渡もベルリン・フィル・デビューに際して、武満の作品を加えていましたので、「タケミツ・サウンド」として親しまれているその  独特の音響が、かつての小澤征爾以来、二度にわたって日本人の手によってベルリンの地を彩ったことになります。
水をモチーフとした作品の最後は、邦楽の世界から宮城道雄(20世紀)の「水の変態」をご紹介します。一般的には「琴」の名で呼ばれる和楽器の筝(そう)と声による作品で、自然界を循環する水が次々と形や姿を変える様を描いた宮城の代表作です。https://youtu.be/YCFgILfjua4?list=RDYCFgILfjua4  水の変態(抜粋) 宮城道雄