秋も深まってきました。夕暮れ時、地面に舞う枯れ葉を見ながら、一抹の哀愁を感じる今日この頃です。今から60年以上前のことですが、ヨゼフ・カイルベルトというドイツの名指揮者がいました。ヨーロッパの クラシック音楽を牽引する大立者の一人でした。彼はNHK交響楽団の招きを受けて何度か同団を指揮したことがあります。演奏された曲目のほとんどがドイツ・オーストリアの名曲ばかりでしたが、当時のライブ録音を聴くと、まだ発展途上だったN響から、ふだん聴けないような重厚で厳しいドイツ風の響きを引き 出していたことがよく分かります。ある日のリハーサルで「道に舞う枯れ葉のように」という言葉を使いながら、彼が曲のイメージを楽団に伝えていたことを、当時のコンサートマスターが語ったことがあります。印象に残る場面だったのでしょう。
曲はブラームスの交響曲第3番の第3楽章でした。この楽章は、フランスの小説「ブラームスはお好き」(フランソワーズ・サガン)を原作とした映画「さよならをもう一度」(’61)で使われて以来、単独で演奏されることが多くなった作品です。3人の男女の間に揺れ動く想いと葛藤を巡るストーリーの全編にわたって、この切ない第3楽章が編曲されながら使用されています。
https://youtu.be/0UL09_Q4b5g?list=RD0UL09_Q4b5g&t=34 ブラームス交響曲第3番 第3楽章
https://youtu.be/WCBoz0ls57k?list=RDWCBoz0ls57k ブラームス 交響曲第3番 第3楽章 映画の画像つき
https://youtu.be/sw0E1p9tpwM?list=RDsw0E1p9tpwM 同曲 ボサノバ風アレンジ 映画の画像つき
前月号で、「出すぎた杭は打たれない」という形で何曲かご紹介しましたが、このブラームスの曲もその仲間の一つです。ただ、 この交響曲は、第3楽章のみならず、4つの楽章すべてが魅力に富んでいますので、できるだけ全曲をお聴きいただきたいと思います。(ブラームスの交響曲は計4曲で、ベートーヴェンに比べて数は少ないですが、どの楽章も「外れ」のない充実したものです。) https://youtu.be/aynbkhsvs4o?list=RDaynbkhsvs4o交響曲第3番(全曲) バーンスタイン ウィーン・フィル
ブラームスは、若き無名時代に同じドイツの先輩作曲家シューマンに見出だされ、世に紹介されました。そこから順風満帆のキャリアを重ね、押しも押されもせぬ大作曲家としての地位を築いていきます。年を経て、彼にも若き後輩を世に送る機会が訪れます。そのお相手は新進作曲家、ドヴォルザークでした。彼はドイツ人ではなく、ボヘミア(チェコ)の出身でした。しかし、その音楽にはドイツ音楽の影響が色濃く出ています。彼は後にアメリカに渡り、交響曲第9番「新世界より」で、よりグローバルな地平を切り開く ことになりますが、渡米前の作品は、ドイツ風の響きの中にボヘミア魂が躍動し、スイングしています。 中でも交響曲第8番は、その土俗的な持ち味から「新世界よりも傑作」という声が絶えない作品です。
この曲も全楽章が聴きどころですが、中でも第3楽章が群を抜いて人気があります。日本では70年代後半、CBSソニーのCMでこの曲が流れたことから、その人気に火がつきました。その時使われたのは、同社の所有するブルーノ・ワルター指揮コロンビア 交響楽団の録音でした。ワルターは、先述のカイルベルトよりもさらに古株の指揮者ですが、フルトヴェングラーやカラヤンやバーンスタインなどのレコードが多く出回る前は、日本で最もファンの多い指揮者でした。また、マーラーの弟子としても知られています。 https://youtu.be/obacQGFCY2M ドヴォルザーク 交響曲第8番 第3楽章 ワルター コロンビア交響楽団
https://youtu.be/7V0nX9AyFIk?list=RD7V0nX9AyFIk 交響曲第8番 全楽章 ワルター コロンビア交響楽団
0コメント