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ウィーンに旅する (7)

ザルツブルクに一泊旅行をした日には暫く雪が降ったが、ソフィーはレンタカーを無事に運転してくれた。途中ハルシュタットの湖畔の教会が見えた。オーストリアの典型的景色として有名だそうな。ザルツブルクに着くと、大規模なクリスマスマーケットをざっと見た後、モーツァルトの生家に急いだ。12世紀に尼僧院の敷地内に建てられ、結婚した父レオポルトが1747年に三階に入り、一家は26年間そこに住んでいた。台所、居間、寝室(モーツァルト生誕の部屋)とスタジオ(空の部屋にピアノだけが置いてあった)からなる質素な住まいで、七人の子供達の中で生き残ったのは1751年生まれの姉ナナールと1756年生まれのヴォルフガングのみ。寝室とスタジオが壁なしで隣接しているのが面白かった。睡眠時にふとアイデアの湧いた若き日のモーツァルトが寝床を飛び出してスタジオのピアノに向かったかも、などと想像した。登山電車で行った丘の上の大司教の居城は立派で、窓から突き出た大砲や鎧などの武器、モーツアルトのオペラのシーンなど多くの展示物があり、特にマリオネット劇場の模型の数々は興味深かったし、ザルツブルクを巡る山々は美しかったが、コロレド大司教はモーツアルトを優遇しなかった人だという事が頭から離れなかった。

夏の思い出 フィンガルの洞窟 メンデルスゾーン

8月は旅行シーズンですので、今年も多くの方がバカンスや遠出の旅を楽しまれたこと でしょう。せっせとお金を貯めて、念願のヨーロッパに私が初めて行ったのも、40年前の 8月のことでした。ツァーパックの旅行で、はじめは寄せ集めのよそよそしかった一行も、 何日かすると少しずつ打ち解けていきます。そうなると今度は何人かの方が、行ったことのある国の数や同じ国に行った回数や、どれだけ珍しい場所に行ったかなどを巡っての自慢話に花が咲くようになり、最後はさながらマウント合戦の様相を呈していきました。添乗員の方が小声で教えてくれたところでは、パック旅行の場合、必ずそういうお客様が何組かいらっしゃるとのことでした。そういう方のお話は、興味深く勉強になる反面、何度か聞いていくうちに、若干食傷ぎみになったというのも正直なところです。ある日の食事で、そういうご夫婦と相席になりました。知的なご年配で旅行経験豊富なご様子でしたが、特にスコットランドが 良かった。あそこはお薦めです。とのことでした。そこで「ではフィンガルの洞窟にも行かれたのですか?」と尋ねたところ、「フィンガルの洞窟?何ですか、それは?」と逆に聞き返されました。「あれ? スコットランドが好きなのに、フィンガルの洞窟を知らないの?」と内心は思ったものの、そこは顔には出さず、同地について自分の知る限りの情報を一応お伝えしました。しかし、結局お二人は合点されずじまいでした。フィンガルの洞窟は、スコットランド沿岸の島にある玄武岩の岸壁にできた洞窟のことです。長年にわたってバイキングの侵入に 悩まされてきたスコットランドですが、この洞窟は、彼らと戦った伝説の英雄フィンガルにちなんでこの名があります。二十歳の8月に当地を訪れたメンデルスゾーン(19世紀ドイツ)の「フィンガルの洞窟」という管弦楽作品でもその名をよく知られています。曲は彼が現場で着想した、岸壁に寄せては返す波を表す音型の繰り返しで始まります。そして、海の厳しさや人間どうしの争いなどを感じさせながら進み、最後は静かに消えていきます。全編、メンデルスゾーンらしい憂愁に満ちたメロディに溢れた曲です。 https://youtu.be/zyZ5cHUaiBI?list=RDzyZ5cHUaiBI  序曲「フィンガルの洞窟」 (洞窟の動画つき) フィンガルの洞窟は、スコットランドの中でもハイランドと呼ばれる北部にあり、しかも、島から島へ船を乗り継がないと行けない  辺境の景勝地です。例のカップルは、観光地の多い南部の方がお気に入りのようでした。ただ、この洞窟のある島は「ヘブリデス諸島」の中の一つですので、あの時、ヘブリデスの名を出せば通じたかもしれないと、日本に帰ってから少々悔やんだ次第です。(メンデルスゾーンの曲も別名が「ヘブリデス」となっています。)余談ですが、フィンガルの洞窟を形成する玄武岩という岩石は、それと同じ石でできた兵庫県の玄武洞から名付けられました。「玄武」は、亀の尾が蛇になっている中国の伝説上の奇獣で、 玄武洞の柱状節理が亀の甲羅や蛇を思わせるところからの命名でした。志賀直哉の小説でも知られる城崎(きのさき)温泉から目と鼻の先の玄武洞は神戸から車で3時間ほどですので、 私も何度かこの奇観を訪ねました。(自慢ではありません。念のため。)それもやはり夏が多かったことを覚えています。                                   記 丸尾豪司

それぞれの「孤独」宮城道雄 長嶋茂雄 村上華岳

「一道を行く者は孤独である」(坂村真民 詩人)今年、日本は放送開始100周年を迎えた。1925(大正14)年、NHKによる 記念すべきその第1回放送で演奏を披露した音楽家が、琴の名手にして作曲 家の宮城道雄だった。彼の作った「春の海」は正月の定番曲であり、洋楽邦楽を問わず日本人の耳に半ばDNAのごとく残る曲と言える。そのレコードは、 国内だけでも300万枚を越える大ベストセラーとなり、海の向こうまで知れ わたることとなる。フランスの女流バイオリニスト、シュメーのオファーにより、尺八をバイオリンに代えて録音されたディスクも、やはり名盤として聴かれ続けてきた。      https://youtu.be/apm87FlA_qc?list=RDapm87FlA_qc  春の海   琴(宮城道雄) シュメー(バイオリン) 「江戸期に作られた名曲を忠実になぞって演奏すること」が音楽家の務めとされていた当時の邦楽界にあって、宮城は洋楽(クラシック)の発想を柔軟に取り入れた新作を次々と発表し、世間を驚かせる存在だった。当然のごとく保守層からは伝統の破壊者として不評を買ったが、慣習にこだわらない一般大衆はその音楽を支持し、やがて彼は邦楽界の大立者としての地位を確立していった。しかし、家庭的な不幸や失明など孤独を道連れとして育った宮城は、邦楽の第一人者となってからも、芸術家としての信念と邦楽界という組織との軋轢の中で、家族にも知られぬ孤独を抱えていたと言われる。巡業先に向かう夜行列車からの転落死という形で人生の幕を閉じた宮城だが、線路脇で発見され虫の息だった彼の最後の言葉は「どこかに連れていってください」だった。彼の悲劇は「スーパースターだからこその孤独」であったと言える。スーパースターの孤独といえば、先月亡くなった長嶋茂雄にも同じことが言える。ミスタープロ野球として巨人軍だけでなくライバルチームの選手にもファンにも愛された彼は、  自分の「見られ方」に力を注いだ人物でもあった。ゴロを取って送球する時の、指先までまっすぐ伸びた華麗なフォームは、歌舞伎の所作から取り入れたもので、全国の野球 少年たちが真似するところとなった。またバッティングでは、わざと大きめのヘルメットを被り、空振りするとそのヘルメットが飛ぶように工夫していたことはよく知られている。  これも、歌舞伎役者が舞台で大見得を切る姿を彷彿(ほうふつ)とさせる。そんな彼は  アマチュア時代から野球の天才と呼ばれてきた。人並外れた才能が長嶋茂雄という存在を作り上げた。多くの人がそう信じていた。しかし、長嶋は人並外れた練習の虫だったのである。野球選手に  とってバットの素振りは大切な練習だが、彼は試合のある日もない日も、ただ一人ひたすらバットを振り続けた。遠征の試合後も、宿に戻ると、日付が変わるまでその素振りは続いたと言われる。チームメートの多くが、長嶋ほどバットを振る者はいなかったという証言を残している。しかし、現役時代、その孤独な練習がメディアで紹介されることはなかった。それについて彼は常々「努力は人に見せるものではない」と語っていた。言い換えれば、 完成されたものだけを見せる。それがプロとしての長嶋の信念だった。日本画の村上華岳は「製作は密室の祈り」という言葉を残しているが、それは長嶋の信念とも通底するだろう。華岳が人生の大半を過ごしたのは、神戸の花隈(はなくま)という町である。今でこそ閑静な住宅地の花隈だが、当時は京都の祇園を思わせる花街だった。最盛期には500人以上の芸妓と100件を越える料亭が軒を連ねていた。しかし、華岳は芸妓遊びには縁がなく、屋敷にこもり終日作画に明け暮れていた。必ず合掌してから筆を取るのがそのルーティンだった。まるで行者のごときその姿から、いつしか彼は「花隈尊者」と呼ばれるようになる。彼は花や風景を描いた作品を残しているが、仏教を題材とした絵画も知られている。ジョットに心酔しダヴィンチに感銘を受けた華岳の描いた「裸婦図」は、官能と慈愛が同居した作品で、幼い頃から母の愛に飢えていた彼の久遠の女性を描いたものとも言われている。この絵を見たある尼僧は「仏である前に何よりも美しい」という感想をもらしている。今月、祇園にある京都現代美術館に足を運んでみた。当館が所蔵する華岳の作品を見るためで  ある。たまたま祇園祭の日だったが、山鉾巡行の前日だったため、八坂神社付近に大きな混雑はなく、作品もゆったり鑑賞できた。華岳が孤独な苦行の果てに描いた晩年の「太子樹下禅那」は「仏教画のモナリザ」と呼ばれる作品だが、その現物に対面できたことは、この夏一番の思い出になるかもしれない。

健康講座「日常診療で遭遇する消化器外科疾患と手術のタイミング」

講師:医学博士 佐々木健人氏7月7日(月)桜楓会健康講座がZoom形式にて開催され、会員22名、非会員2名が聴講しました。講師には慶應病院の外科医師で現在UBCにて研究に従事している医学博士・佐々木健人氏をお迎えし、大腸疾患を主題に、虫垂炎、ポリープ、癌など頻度の高い疾患の解説、手術の方法や術後の合併症などについて、手術の動画も交え、1時間半にわたってお話を伺いました。聴講者からの質疑応答も活発で、大腸癌や人工肛門を経験したという方もおられ、参加者の関心の高さがうかがえました。大腸癌は日本人、特に中高年層において最も罹患率の高い癌の一つであり、初期段階では自覚症状がないため、定期的に検査を受けることが重要とのことです。また近年は腹腔鏡手術や、ロボット支援手術が普及しており、開腹手術に比べて患者の負担が少ないため、今後もこれらの術式が広く採用されていくと考えられています。現役医師による日本語での講演は、カナダにおいては極めて貴重であり、今後も機会があればこのような講座を引き続き開催していきたいと思います。プログラム1.急性腹症とは  2.腹膜刺激症状3.良性疾患         4.手術5.悪性疾患         6.合併症

第50回ゴルフ大会

去る6月30日、第50回桜楓会ゴルフ大会がランガラゴルフコースで開催されました。(桜楓会は40周年ですが、当初は年に2回開催されていたことがあり大会としては50回目になります。)涼しい日や雨が続いていたりで天候も心配されていましたが、当日は気温もあがるとの予報で参加賞のボールタオルとEdokkoさんのギフト券に加え、凍らせたお水もご用意させていただきました。今年は会員16名、会友8名の24名が参加。桜楓会はやはりシニアの人が中心になりますので、遠いと行くのが大変、という意見が近年多く聞かれ、初めて市営のゴルフ場を使用させていただきましたが、ランガラゴルフコースはここ1、2年で大幅な改修工事を行い、市営のゴルフ場の中でも一番コンディションの良いコースでもあります。定刻の10時57分に1組目がスタートしましたが、思いがけず夏日となり暑い中でのプレーだったのではないでしょうか。最終組終了後、お楽しみのバッフェ形式のお食事と成績発表です。成績は新ダブルペリア方式(隠しホールをINとOUTで12ホール設けます)を採用しておりますので、みるみる順位が入れ替わりどなたでも優勝の可能性はありそれも楽しみに一つかもしれません。今回の入賞者をざっと記すと以下の通りです。敬称略ネット優勝:マーク鹿内       ドラコン:男子 矢野修三、女子 石倉ひとみ(会友)KP(ニアピン):シモン清子、中幸子(会友)、山下征基(会友)他にチーム賞やドアプライズも設けられ、皆さん笑顔が溢れていたのが印象的でした。ゴルフ大会開催に当たり、UGC4サムプレイ券(長井明さん)、メドーガーデン2サムプレイ券(塩入勝子さん)、亀井ロイヤル食事券(石倉ひとみさん)をはじめ多くの参加者の皆様から賞品をご提供いただき深くお礼申し上げます。年々、会員のプレーヤーも減ってきてはおりますが、体調不良も怪我もなく楽しい一日になったことがなによりでした。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。写真:https://photos.app.goo.gl/MUuvWsLNYpG1cExT8(記:鹿内光世、写真:橋本典枝)

で描く絵画 水の戯れ ラヴェル

風そよぐ 楢(なら)の小川の 夕暮れは 禊(みそぎ)ぞ夏の しるしなりける (藤原家隆) 生涯に6万を越える歌を残した平安時代の歌人の作で、百人一首にも収められている歌です。何気なく読むと、川の表に爽やかな風のそよぐ夏の夕暮れの風景が浮かんでくるかもしれません。しかし、実は「秋近し」の歌なのです。「すっかり秋めいた風が冷ややかな夕方だが、川の中の禊で、かろうじてまだ夏だということに気づいた」というのがこの歌の内容です。禊は川の水で自らを 清める儀式で、夏の終わりと冬の終わりに行われていました。この場合はむろん前者を指します。日本は先月、観測史上最も暑い6月となりました。近年のバンクーバーの夏も、地球温暖化の影響で暑くなってきましたが、 日本に比べればまだまだ過ごしやすい気候ですので、かえってこの歌の言わんとするところが理解しやすいかもしれません。来月の今頃は、すっかり秋の気配が押し寄せている可能性が高いので、これから短い夏本番を楽しみたいものですね。今年が生誕150年に当たるラヴェル(20世紀フランス)のピアノ曲「水の戯れ」は、そんな夏の盛りにふさわしい音楽と言えるのではないでしょうか。これは彼の代表的なピアノ作品の一つですが、日の光にきらめく水のほとばしりが目に見えるような、音による絵画ともいうべき曲です。  https://youtu.be/F-mMhJ2UvWY?list=RDF-mMhJ2UvWY  水の戯れ ラヴェル                     ラヴェルには、恋した人間の男性に拒絶されて消え去る水の妖精を描いた「オンディーヌ」という曲もあります。これも、さざ波の中に踊る妖精の様子が目に浮かぶようです。 https://youtu.be/Kwxm6uoU-B4?list=RDKwxm6uoU-B4 オンディーヌ ラヴェルラヴェルと同時代のレスピーギ(イタリア)にも、水を扱った傑作があります。交響詩「ローマの噴水」です。夜明けから日没までの 4つの時間帯の中で、後ろ向きにコインを投げると再びローマに戻れるという言い伝えの「トレヴィの噴水」など、4つの噴水が登場します。(ちなみに、私も昔ここでコインを投げましたが、いまだにローマ再訪のチャンスは巡ってきません…。) 今回はこの交響詩の第2曲「朝のトリトンの噴水」をご紹介します。海の神トリトン(トリトーネ)が海面に姿を現し、ほら貝を吹く様子を表した彫刻(ベルニーニ作)で知られる噴水です。ほら貝を模したホルンのファンファーレに続いて、やはりきらきらとした水の躍動が眼の前に 浮かんできますが、ここでのフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットなどの木管楽器や打楽器の扱いは見事の一言です。ttps://youtu.be/9lUjpeEcqB8?list=RD9lUjpeEcqB8  朝のトリトンの噴水 レスピーギ (彫刻の写真つき)時あたかも先月、躍進を続ける日本人指揮者、山田和樹がベルリン・フィルの指揮台に立ちました。日本人としては13年前の佐渡裕以来のことですが、今回、山田が選んだ曲にも、この「ローマの噴水」が入っていました。他にも、世界にその名を知られる日本人作曲家、武満徹の「ウォーター・ドリーミング」という曲も取り上げられましたが、これも水に関連した作品でした。なお、13年前の佐渡もベルリン・フィル・デビューに際して、武満の作品を加えていましたので、「タケミツ・サウンド」として親しまれているその  独特の音響が、かつての小澤征爾以来、二度にわたって日本人の手によってベルリンの地を彩ったことになります。水をモチーフとした作品の最後は、邦楽の世界から宮城道雄(20世紀)の「水の変態」をご紹介します。一般的には「琴」の名で呼ばれる和楽器の筝(そう)と声による作品で、自然界を循環する水が次々と形や姿を変える様を描いた宮城の代表作です。https://youtu.be/YCFgILfjua4?list=RDYCFgILfjua4  水の変態(抜粋) 宮城道雄